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    〈働き方改革レポート〉非正規労働者に尊厳を/地下鉄「メトロレディ」の闘い

     「簡単なことです。同じ仕事をしているのに、なぜ同じ賃金を払えないのか」疋田節子さんは東京地裁の前で訴えた。

     地下鉄駅の売店で働く非正規労働者の女性たちが全国一般東京東部労働組合に加入し、メトロコマース支部を結成して9年が経った。組合は有期契約労働者の不合理な格差を禁止する労契法20条違反で2014年5月に提訴し、闘っている。「20条裁判」では手当などの部分的な格差を主に争うケースが多い中、手当だけでなく、本給を含めて全面的な賃金差別の是正を求めた。請求額は4人で4千万円を超える。

     東京地裁は昨年3月、残業代割増差額分の支払いのみを認め、残りの訴えは退けた。現在も東京高裁で係争中だ。働き方改革関連法案に同一労働同一賃金が掲げられる中、差別に挑む闘いの動向が注目される。

     

    ●1円でも差別は差別

     

     組合はストも辞さずに有給の忌引休暇、雇用延長などの労働条件を勝ち取ってきたが、肝心の正社員との賃金差は変わらない。支部委員長の後呂良子さんは会社からの一言が耳に残っている。「もういいだろう。他に何を要求するんだ」

     後呂さんの考えはシンプルだ。「例えば正社員1000円、非正規500円で同じ業務をした場合、500円の差がある。職務や役割によって格差を是認する働き方改革の同一労働同一賃金の考え方は、この差を『500円から800円にしたらどうですか』という話に過ぎない。200円の差は残ったまま。1円でも差別は差別」

     合理的な待遇差はあるのだろうか。組合員の瀬沼京子さんは「差別が理にかなうことはあり得ない。(地下鉄駅の売店では)同じ仕事をせざるを得ないのだから」という。

     

    ●選ぶのは「第三の道」

     

     会社はコンビニ大手ローソンと業務提携を結び、15年秋から、直営売店メトロスの多くをコンビニ形態のローソンメトロスに転換した。原告らと同じ待遇の「契約社員B」の募集は停止している。

     事業形態が変更されても地下鉄の売店で働く仲間に変わりはない。組合は1人でも仲間を増やそうと、店舗を回って春闘アンケートを配布した。賃上げや月給制を求める声が寄せられるものの、組合加入にはなかなか結びつかない。瀬沼さんは「組合で立ち上がろう、と言うのは簡単だけど、実際はすごく難しい」と感じている。

     労働や貧困問題を扱う学校の授業や集会に招かれる機会も増えてきた。話す時には差別に対する怒りだけでなく、「第三の道」を伝えるよう心がけている。後呂さんは「私たちは仕事を辞めるか辞めないかだけではなく、仲間と一緒に組合を作り、会社と対等に交渉し、労働条件を改善することを選択した。この第三の道を忘れないでほしいと伝えている」と強調する。

     

    ●全国で運動を

     

     これまでの闘いをまとめたドキュメンタリー映画のDVDとガイドブックが3月、ビデオプレスから発行された。全国で上映会を呼び掛け、支援の輪が全国に広がりつつある。

     後呂さんは「私たちは非正規差別撤廃を求めて闘っている。壁は高いが希望はある。共に声を上げ続ける仲間、そして後に続いてくれる仲間を信じて闘っている」と運動に希望を見いだしている。

     

    〈写真〉2017年3月23日、東京地裁前で判決に抗議する後呂さん(左)