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    憲法特集/安倍改憲4つの柱を切る

     自民党は第9条をはじめ、改憲に向けた4項目(たたき台素案)を提示しています。「最小限、国家的に必要な部分を取り上げた」として、国民の理解を得たい考え。でも、その内容には問題が大ありです。

    (1)書き込まれる自衛隊/「憲法解釈は不変」のうそ

     自民党は「自衛隊を憲法に書き込んでも、9条の憲法解釈は1ミリも動かさない」と繰り返します。しかし歴代政権が「違憲」としてきた集団的自衛権の行使を、「合憲」に解釈変更した安倍政権の手法を考えるととても信用できません。

     自衛隊と憲法の関係について政府は、「自衛のための必要最小限度の実力組織で、戦力に当たらない」とこれまで説明してきました。ところが自民党の改憲条文では「必要な自衛の措置をとる…ための実力組織」と自衛隊が位置づけられていて、「最小限度」の文字は削られています。これでは自衛隊の装備や活動範囲は青天井に拡大しかねません。

     多くの憲法学者が指摘するのは、後から加えられた条文が従前の条文に優先する法律の原則です。9条に自衛権や自衛隊を追記すれば「交戦権の否認」「戦力不保持」の9条2項は死文化してしまいます。

     

    〈写真〉陸上自衛隊

    (2)緊急事態条項/独裁政権生む危険性

     大災害時の迅速な対応には内閣の権限強化が必要――自民党がこんな理屈で憲法に盛り込もうと主張する緊急事態条項。民主社会を破壊しかねない内容です。

     緊急事態条項のポイントは、内閣だけの判断で法律と同じ効力を持つ政令を作れること。ヒトラーは、ワイマール憲法の緊急事態条項を悪用し、ナチス独裁を完成させました。今回の条文案では、緊急事態の発動を「大規模な災害」時としていますが、山内敏弘・一橋大学名誉教授は「広辞苑では『災害』に人的なものも含めている。軍事的事態で発動される危険がある」と指摘しています。

     もちろん、自然災害時に限ったとしても問題ありです。東日本大震災の被災自治体調査では、国よりも自治体の権限強化を求める声が多数。現場を把握する自治体が予算と権限を持って動くべきというのが、救助や復興を通じた教訓です。

     

    〈写真〉東日本大震災で市街地が打撃を受けた岩手県陸前高田市

     

    (3)合区の解消/自民党の党利党略?

     自民党は参院選挙区について、各都道府県で最低1人以上を選ぶ規定を47条に盛り込もうとしています。そのため、高知県と徳島県、島根県と鳥取県で設けられている「合区」を解消する、といいます。

     合区によって減った自民党の議席を、元に戻したいという狙いが背景にあります。「強固な基盤を誇る地方の議席を守りたいという自民党の党利党略のための改憲案」(西日本新聞)と批判されています。

     合区は選挙区間の「1票の格差」を是正するために導入しました。そのプロセスを無視した性急な内容について、憲法審査会では自民党以外の議員から「改憲でなく選挙制度改革で結論を得るべきだ」と指摘が相次いでいます。

     

    〈写真〉投票の様子

     

    (4)教育の充実/法律や予算措置で可能

     自民党は、経済的理由にかかわらず教育を受ける機会を確保するため、教育環境整備の努力義務を26条に規定するといいます。当初目指していた「高等教育を含む教育の無償化」の規定は見送られました。

     自民党内で(1)無償化のための4兆円の財源確保が難しい(2)民主党政権が実施してきた高等教育無償化を「ばらまき」と批判してきた経緯の説明が難しい――などの理由から反対が相次いだためです。

     そもそも、無償化を実施する上で改憲は不要です。教育の機会均等は憲法に基づく理念として教育基本法に明記され、国連人権規約上の義務にもなっています。国会と内閣がその気になりさえすれば、法律や予算措置で可能。「改憲のための改憲」と言われても仕方がありません。

     

    〈写真〉小学校の授業風景