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    〈働き方改革レポート〉残業月85時間でも過労死認定/トヨタ系企業の「三輪裁判」

     安倍政権が通常国会に提出する働き方改革関連法案。今回は断念した裁量労働制の対象範囲拡大に加え、「残業代ゼロ」制度(高度プロフェッショナル制度)の創設、残業の上限規制――そのいずれもが過労死を増やすものとして労働者や過労死遺族から強い反対の声が上がっている。

     トヨタ自動車系の下請け会社テー・エス・シーの愛知工場(東海市)で働いていた夫の三輪敏博さん(当時37歳)の過労死を、名古屋高裁(2017年2月に判決)で認めさせた妻の香織さん(41)は、関連法案の労働基準法改定に反対している。

     

    ●実態直視した高裁判決

     

     「高裁は、月85時間余の残業でも、うつ病を発症していたなどとして過労死と認めました。厚生労働省は最高裁に上告せず、判決は確定しました。過労死の認定基準は月100時間といわれますが、100時間未満でも過労死するのです」

     香織さんが疑問視するのは、残業の上限規制だ。安倍政権が、罰則付きといいながら「1カ月で100時間未満、2~6カ月平均で80時間以内」という緩い上限を設けようとしているからだ。

     敏博さんの仕事は、救急車の防振ベッドの組立・架装だったが、新車種試作現場への応援も連日のようにあった。亡くなった11年は、東日本大震災の影響で低下した生産の回復が求められていた。加えて、節電を理由にトヨタと関連会社は7~9月、木金休み・土日出勤という変則勤務を実施していた。敏博さんは生活リズムを崩し、うつ病を発症。同年9月27日、自宅で虚血性心疾患で亡くなった。

     

    ●月45時間以内に規制を

     

     香織さんは、半田労基署に労災申請したが、12年10月に却下。名古屋地裁も厚労省側が算出した「残業は85時間余」を根拠に、訴えを退けた。

     しかし、名古屋高裁の藤山雅行裁判長は、残業を「少なくとも85時間以上」とした上で、「直近1カ月は1日5時間程度の睡眠を確保できない状態。うつ病ではない人の100時間超の時間外労働に匹敵する過重な負荷だった」と認めた。

     香織さんは、愛知県労働組合総連合(愛労連)などでつくる「トヨタ総行動実行委員会」の支援を受け、デモの先頭に立ってきた。

     今、政府の関連法案について、こう語る。

     「上限規制といいながら『100時間未満』までの残業を認めるのは、過労死を増やすものです。働く人たちの命を守るには、残業は大臣告示の月45時間までにしてほしいと思います」(ジャーナリスト 柿野みのる)