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    労働時評/トヨタ回答に五つの問題/課題残した18春闘大手回答

     18春闘の大手先行回答は、昨年をやや上回った。金属産別の低い水準に対し、内需産別の健闘が特徴だ。一方、トヨタ労使が初めてベアを非公開とし、春闘の社会的な役割に影を落とした。全労連は賃上げと改憲阻止を掲げ、ストなど24万人に及ぶ総行動を展開した。

     

    ●好業績でも低水準

     

     今春闘では賃金の引き上げだけでなく、その水準が問われた。連合の大手回答(3月22日)は平均6508円(2・17%)で、昨年より284円(0・12%)の微増。ベアは1948円(0・64%)で、昨年より654円(0・22%)高い。300人未満のベアが1569円(0・56%)、300人以上が1960円(0・65%)で、昨年と異なり、額、率とも中小が大手を下回っている。

     神津里季生会長は回答について、要求の4%からみると「低い」としつつも、「後続の中小へ価値ある回答」と語っている。

     しかし今春闘の有利な情勢から検証すると、妥結水準は低い。昨年と異なり、大企業の利益は3月期で27%増と過去最高である。内部留保も過去最高に達し、数十年ぶりの人手不足で、政府と経団連も賃上げ目標数値を表明する有利な情勢だった。

     妥結水準のベア0・6%程度では、物価上昇率(18年2月1%)を下回り、収益や物価上昇より賃金のみが下がる「賃金デフレ」に転落しかねない。分配のゆがみ是正に課題を残した。

     

    ●トヨタ非公開回答の疑問

     

     自動車総連は日産が2年ぶり3000円の満額(昨年プラス1500円)を獲得し、本田は1700円(同100円)など、例年以上に分散した。

     異常なのは、賃上げ額を明示しないトヨタの日本語回答。組合発表は「一般組合員の賃金改善分は昨年を上回る」だけだ。昨年のベアは1300円。会社側は手当などを含め1人平均1万1700円、3・3%の昇給という。

     春闘相場をリードしてきた42年間の金属労協春闘でもトヨタの回答は異常だ。五つの問題がある。

     第一は、労使交渉でベアの非公開を合意し、組合員にも、産別本部にも知らせないという組合民主主義の問題だ。職場には職種・職能資格・等級別の賃金配分方法や計算表などを配布しているもようだが、ベア額は非公開である。

     第二は、回答は組合要求のベア3000円には応えず、賃金増額や自己研鑽(けんさん)費用補助、非正規の手当込みであり、経団連は「多様な賃上げ」を評価している。

     第三は、中小、未組織労働者に対し賃上げ水準の分からない「日本語回答」を波及させるという無責任で非社会的な労使の行動だ。

     第四は、企業優先で自動車総連や金属労協の共闘軽視であり、共闘の相乗効果で高い賃金水準の獲得をめざす春闘方式の否定となり連合の求心力にも関わる。

     第五は、3月期の純利益は31%増と過去最高で、内部留保も巨額なのに、手当を含め引き上げは3・3%に過ぎない。しかも下請けには単価引き下げを要請する不条理な対応である。

     

    ●原点踏まえ春闘再構築を

     

     トヨタ労組は異例回答に「極めて残念」「苦渋の選択」と悩んだようだ。自動車総連の高倉明会長は「ベアの水準が出てこないことは共闘の観点から問題」と苦言を呈した。トヨタ労組出身の相原康伸連合事務局長は「要求と回答が異なり、データの整備や産別共闘、グループなどさまざまな検証が必要」と述べている。労働界からは「回答を受け取るべきではない」などの意見も聞かれた。

     会社側は非公開の理由として「トヨタを見て自社の回答を決める慣習が、各社労使の競争力強化の話し合いを阻害(しているから)」と、今後も同様の対応を表明している。

     トヨタ労組は職場、他労組への影響を確認しながら、今後の要求案や交渉の進め方を検討していくもようだ。トヨタ式回答が広がると、「隠しベア」「多様な賃上げ」と共闘軽視、春闘つぶしにもなりかねない。改めて産別統一闘争と共闘を軸とする原点を踏まえた春闘再構築が重要だ。

     

    ●統一闘争で相場形成

     

     大手の回答水準に大きな影響を与えたのが電機連合の前年プラス500円と、ベア1500円の相場形成である。東芝、シャープが産別統一闘争に復帰し大手13労組が先行相場を形成。基幹労連など金属労協5産別52組合の平均ベア1541円に波及している。

     ただし、妥結水準は好業績でも平均0・5%にとどまる。業績格差の拡大と中小への波及重視など統一闘争の力量が試されている。

     

    ●ゼンセン、JAMは健闘

     

     内需産別や中小産別は健闘している。UAゼンセンは産別妥結権を生かし、先行大手共闘で相場形成を重視。103組合の平均ベア(3月23日)は2066円(0・71%)で前年比736円増を獲得し、「以前は電機など金属労協を超えられなかったが、共闘が奏功した」と語る。

     JAMも「昨年実績以上」を確認し、ベアなど賃金改善(3月20日)は280組合平均で1612円を獲得し追い上げている。

     

    ●全労連は24万スト行動

     

     全労連などは3月15日、大幅賃上げと労働法制改悪阻止、改憲阻止を掲げて、ストを含む全国統一闘争を展開し、昨年より4万人多い24万人が参加した。

     賃上げ水準(3月15日)は189組合で平均6019円(1・96%)と、前年比770円の増加。経済と政治課題を結合した闘争を全国で展開中だ。(ジャーナリスト 鹿田勝一)