「機関紙連合通信社」は労働組合や市民団体の新聞編集向けに記事を配信しています

    時の問題/労働運動も取り締まり対象に/東京都提案の迷惑防止条例案/ストーカー対策は口実?

     東京都の迷惑防止条例改正案が3月23日、都議会警察・消防委員会で可決されました(共産党は反対)。同29日に本会議採決が予定されています。ストーカー規制法の条文に合わせた改正と説明されているものの、適用範囲が広く、労働運動や市民運動も規制されるのではという懸念が拭えません。

     改正案は、規制対象となる「つきまとい行為」の類型をストーカー規制法に合わせて増やす内容。(1)みだりにうろつくこと(2)Eメールなどの連続配信(3)監視していると告げること(4)名誉を害する事項を告げること(5)性的羞恥心を害する事項を告げること――とし、罰則も重くしました。

     問題は、対象がストーカーに限定されるかどうかです。規制法では「恋愛感情や好意の感情」などを満たす行為が対象。異性に交際を求めたり、離婚後に復縁を迫ったりする行為を指します。一方、都条例は「悪意の感情」を満たす行為が対象で、恋愛感情よりぐっと範囲を広げているのが特徴です。

     例えば、社長や総理大臣を批判した者はストーカーとはみなされませんが、「悪意ある批判だ」と判断されれば、名誉毀損(きそん)などで処罰されかねません。

     警視庁は「正当な理由による活動は取り締まりの対象外」と答弁しています。こうした答弁が乱用防止の歯止めになるのかどうか。

     「正当な」という限定がくせ者です。

     

    ●「フジビ闘争」の教訓

     

     最近、こんな労働争議がありました。

     東京都荒川区にある印刷会社富士美術印刷が子会社を突然破産させ、退職金なしで従業員全員を解雇した事件。職場復帰を求めた全国一般全国協議会東京労組組合員たちによる「フジビ闘争」です。会社側は組合が街頭宣伝で使ったのぼりの文言が名誉毀損に当たるとして、組合ではなく組合員個人に損害賠償を請求する「スラップ訴訟」(大企業が市民をどう喝するためなどに行う訴訟)を提起しました。

     結果として地裁、高裁に続き最高裁までが損害賠償請求を容認する結果となりました(今年2月に中央労働委員会で和解決着)。裁判官は組合の街頭宣伝を正当な組合活動とはみなさず、組合員個人による、社長への名誉毀損行為だと判断したのです。問題となったのぼりには「億万長者の社長は給料・退職金を踏み倒すな」「フジビは責任を取れ」などと書かれていました。

     弁護団は「退職金も払われずに放り出されたわけで、これくらいの文言は当然。正当な組合活動の範囲と考えるのが常識」と指摘しましたが、結果は敗訴。

     

    ●「警察が判断」の恐さ

     

     今回の都条例案に照らせば、社長への「悪意の感情」を満たすための宣伝活動だと判断され、名誉毀損で取り締まり対象にされる恐れが十分。警察は「正当な組合活動ではないのだから、規制対象」と言いかねません。

     どんな活動が正当なのか、そして悪意があるのかどうか――いずれも警察が判断することになります。

     都条例案が成立すれば、警察が許容できる範囲に運動を萎縮させる――そんな事態が懸念されます。