特定最賃の改定で、毎年土俵際で踏ん張っているのが大阪だ。地方最賃審での地域別最賃改定の答申は毎年8月。この時点で一時的に地賃に追い越されても、すぐに引き離した年が4~5年続く。複数年で追い越された特定最賃は「凍結を原則とすべき」(2017年版経労委報告)と経団連が主張する中、17年度も「塗料」と金属製造業の全7業種で改定にこぎ着けた。一方、年々強まる不要論に対応しようと、制度の新たなあり方の方向性を示す研究会報告書をまとめた。
大阪の最賃審では、改定の必要性の有無を決める審議を関係労使で行うなど、独自の取り組みを続けてきた。17年度は、難航が予想された「自動車小売」で最初に必要性を確認。後続する他業種での「不要論」の浮上を封じた。
井尻雅之副事務局長「当該労使がこれまで積み上げてきた信頼関係と、『この程度の水準では容認できない』という労働側の強い危機感があった。加えて、地賃との役割の違いを模索する労働側の粘り強さと努力もあった。使用者側には、人手不足が深刻で優秀な人材を確保したいという思いがあったのではないか」と話す。
●二重底での設定を提起
特定最賃の役割を示すべきとの最賃審の要請もあって、連合大阪は16年5月、「特定(産業別)最低賃金のあり方研究会」(主査・上田眞士同志社大学教授)を立ち上げ、17年9月に報告書をまとめた。
地賃との役割、機能の違いを検討。「仕事基準での最低賃金規制」への政策的試みとして、「二重底」の下限設定を提起した。
一つが、制度の性格づけを「産業のセーフティーネット」から「産業の入口賃金」に変更しようと模索する電機連合の試案である。具体的には、非正規労働者を含め、1年以上の継続雇用の労働者を対象に設定。金額水準は「(現行の)地域別最賃と比べて10%以上高い水準」から、高めの高卒初任給水準をめざす。社会的な水準をより意識した規制となる。
もう一つが「一人前労働者」の下限を設定し、賃金の底支えを図るJAMの試みだ。「一人前」の定義は「職種を問わず一定のまとまった範囲の仕事について、緊急時対応や不具合チェックなど定型的仕事を除いた部分についても自分で判断し責任をもって行っている労働者」。一人前におおむね到達すると考えられる30歳の常用労働者が対象となる。金額水準は、高卒初任給を大きく上回ることになる【表1】。
技能形成の開始期から、一人前になるまでのキャリア形成に合わせた、賃金底支え機能への発展を展望する。
●このままでは存続困難
ただ、どちらも簡単ではない。産業の高卒初任給をめざす入口賃金規制の取り組みでは、中小企業の協定引き上げが必要。大阪の地賃は909円。初任給水準は大手で千円を超える。「一人前労働者」では、これまでに集めたことのない最賃協定を集めなければならない。新設・改定には適用対象者の2~3分の1を含む協定が必要。試行錯誤が予想される。
17年度改定で、大阪は5業種が地賃を上回ること、わずか1~5円【表2】。「残す意味があるのか」という使用者側委員の声は年々強まる。
井尻副事務局長は「特定最賃の意義付けをどうするかが一番の課題だ。地域別最賃の上昇を口実にした経団連の『特定最賃廃止論』に対し、『制度の趣旨が異なる』と反論するだけではもう限界に来ている。『産業の入口賃金』『一人前労働者のモデル賃金』のような方向を示さない限り、維持するのは非常に難しいだろう」。(つづく)
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