安保法制を強行採決し、9条改憲を目指す現政権に対して、労働組合が「戦争反対」を訴えるのは政治的すぎると批判する声がある。しかし、戦争になれば労働者の権利や暮らしは壊される。黙っていてはいけないのではないか――そんな問題意識を戦前の労働運動から学んでいる労組がある。全国一般東京東部労働組合と友好労組の有志だ。東部労組の菅野存(あり)委員長に話を聞いた。
●参加者自らが講師
学習会では大原社会問題研究所の「日本労働年鑑」を教材にしました。参加者自らが順番に講師を務め、1回で1年分、1919年から1940年までが対象期間です。担当講師それぞれの視点で出来事に焦点を当てました。関東大震災時の朝鮮人虐殺、遊郭の女性の闘いなど、さまざまです。
●戦前も非正規差別
私が担当した1935年では軍需工場の臨時工を取り上げました。満州事変を背景とした軍需景気で、臨時工や請負人夫、いわゆる非正規労働者が増加しました。臨時工は本工(正社員)と同じ仕事で退職金や皆勤手当はなく、賃金も低い。今の非正規労働者が抱える問題と同じです。組合は「昭和の奴隷制度」と批判し、同一労働同一賃金を掲げ、差別待遇の改善を要求していました。
臨時工の闘いで有名なのは1933年、三菱航空名古屋製作所争議です。不当解雇反対と日雇制度撤廃で闘う臨時工に、本工が連帯しました。ともにストライキを準備した結果、会社側が譲歩し、直接雇用や健康保険加入などを勝ち取ったのです。当時の闘いから学ぶことは多いと考えます。
●労組解散から戦争へ
戦前の労働組合の組織率は最高で約8%です。治安維持法の下で労働組合が弾圧されても、逮捕を恐れずに、非正規と連帯して闘う労働者がいました。
ところが、日中戦争が始まった1937年7月、盧溝橋事件を境に労働争議が圧倒的に少なくなります。最大組織の全日本労働総同盟は10月、大会で罷業(ストライキ)絶滅宣言を採択しました。「非常時に労働争議をしていたら、戦争に勝てない」ということなのでしょう。
組合の大会では皇居遥拝(ようはい)や皇軍兵士への感謝決議などが行われるようになり、最終的に労働組合は解散、消滅します。
●労働組合でもっと議論を
労働組合が闘う力を失って権力が一層力を持つと、戦争へ突き進む準備が整い、労働者は無権利状態に置かれます。例えば、軍需工場に動員された労働者には当時の工場法、労働に関する法令が適用除外され、無制限に働かされます。賃金も国が統制しているので労働者の闘いによる賃上げの余地はありません。
安保法制や共謀罪の成立、9条改憲が浮上している今だからこそ、労働組合が力を発揮し、戦争を許さない、憲法を変えさせない行動が重要です。
ストを構えて闘う組合がなぜ、戦争に協力してしまったのか。その分析や議論はこれからの課題です。組合員に向けた学習会を5月と7月に企画しています。過去の運動や歴史から学び、過ちを繰り返さず、労働者が主人公の社会をつくるために、労働組合の社会的役割やビジョンについて議論を深めていきたい。
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