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    沖縄レポート/敗北が突き付ける重い課題/名護市長選を振り返る

     南城市長選での劇的勝利(1月21日)の美酒は、それに数倍する苦いものへと置き換わった。2月4日投開票の名護市長選は、予想を超える3458票もの差で、辺野古新基地阻止を訴えた現職の稲嶺進氏が自公と維新推薦の新人、渡具知武豊氏に敗れた。

     異様な選挙であった。市内の企業の役員に菅義偉官房長官から直接電話が入った。参院の族議員たちが密かに市内に入り、業者を集めて圧力をかける「ステルス作戦」を徹底した。「辺野古の『へ』の字も言わない」という争点隠し、基地隠しを貫いた。このような選挙が人口6万人ほどの小さな市で20年も続いているという異常。

     「敗因」という言葉で議論することが虚(むな)しくなる。民意をねじ伏せ、地方自治を押しつぶすために、自公政権は国家権力を総動員して圧倒的な必勝戦術を徹底したのだから。

     

    ●前の勝利はレアケース

     

     沖縄を論じるサイト「OKIRON」で、野添文彬沖縄国際大准教授はこの20年間の6回の市長選を分析して、稲嶺氏の過去2回の当選はレアケースだと述べている(https://okiron.net/politics/459/)。

     2010年は「最低でも県外」を掲げて沖縄で圧倒的な支持を得た民主党・鳩山政権の誕生直後だった。2014年は、直前に当時の仲井真弘多知事が辺野古埋め立てを承認して、県民から激しい批判を浴びている最中だった。この2回を除けば、基地を争点から隠し、経済振興を前面に出し、政府との対話姿勢を示す「勝利のセオリー」が奏功していると指摘した。

     これまでにない横暴な政権が徹底する「勝利のセオリー」に対抗し勝利を導く戦略・戦術を編み出すことは簡単ではない。選挙前に相次いだ米軍の事件・事故は稲嶺陣営への追い風にならなかった。松本文明内閣府副大臣が1月26日、国会で「それで何人死んだんだ」とやじを飛ばし辞任した。渡具知陣営の危機感は相当なものだったが、これらが「追い風」になるとの期待となって稲嶺陣営を油断させた面もあろう。

     

    ●危機感が届かない

     

     より深刻なことは、報道各社の出口調査で若い世代ほど渡具知氏に投票した割合が高かったことである。

     かねてから、大学生ら沖縄の若者に基地容認が広がっているという指摘があった。佐藤学沖縄国際大教授は、若者に正確な理解を得させようとさまざまな努力をしてきた一人だ。

     その佐藤教授が2月27日付の琉球新報文化面に寄せた論考で「若者の無知による容認、という段階はもう終わったと懸念する」と厳しい見方を示した。若者たちは、歴史の理解をした上で積極的に基地を是とするようになっているのかもしれないという懸念である。

     そしてこんな嘆きで締めくくる。「筆者が個人として猛省するのは、危機感を伝える努力が、全く機能していない状況である。新聞の政治面、文化面の議論が、どこにも届いていない」。メディアにも重い課題が突き付けられている。(ジャーナリスト 米倉外昭)