プレカリアートユニオンは2月13日夜10時過ぎ、「アリさんマークの引越社」との労使紛争について、中央労働委員会で全面和解した。紛争化して3年。会社は企業イメージ低下を食い止められず、本格的な引っ越しシーズンを前に決断せざるを得なかったのだろう。
●集団訴訟も提起
2017年のブラック企業大賞を受賞した同社は、引っ越し作業での荷物の破損や車両事故の弁償金を、給与から天引きしたり借金をさせて社員やアルバイトに負担させたり、という労務管理を行ってきた。
退職した元社員からの弁償金問題の相談を受けるようになったのが14年夏。組合ブログなどで相談の呼びかけをすると、「弁償金を取り戻したい」という元社員が多数加入。15年3月には営業職の現役社員が加わり、団体交渉で弁償金制度の撤廃を求めた。
会社は「労働者負担の上限は3割」というところまでは認めたものの、未払い賃金と弁償金問題については司法の判断を仰ぐとして態度を硬化させたため、40人近くの組合員を原告とした集団訴訟に取り組むことになった。
●社会に広く発信
当該組合員をシュレッダー係に配転させるなどの不当労働行為もあったので、ボイコットキャンペーンを含め会社の対応を広く社会に訴えた(配転問題については裁判で決着。17年6月に営業職復帰を実現)。
会社は今回の和解で、労働法を順守し不当労働行為を行わないこと、組合員に対して故意や重過失を除き弁償金の負担を求めないことを確約している。
社員、アルバイトの皆さんには、ぜひプレカリアートユニオンに加入して、弁償金を取り戻してほしい。
●戦略・戦術作りを訓練
組合員である原告33人と提訴準備中だった4人の組合員の未払い賃金、弁償金など(請求総額約2億4千万円)については、解決金を支払うことで合意(金額は非公開)。
現役として果敢に闘ってきた組合員は、これまで西村有という仮名でメディアなどに登場していた。和解翌日の記者会見では本名の野村泰弘(36歳)として解決報告を行った。野村さんは、この和解を機に「会社都合」で退職。3年間の経験を生かして、プレカリアートユニオンの専従になる決断をした。
この争議では、労使関係の当事者だけでなく、顧客となる人を含めて、広く社会に訴えるために動画投稿サイトのユーチューブなどインターネットを活用し、当該組合員がメディアやインターネットに登場し、闘う姿を見せた。
そのような闘い方をするに当たり、早い段階で、野村さんにはコミュニティーオーガナイジング(CO)の研修を受けてもらった。
歴史好きだと聞いて、城攻めに例えながら戦略・戦術について説明した。その戦略・戦術の立て方についてもワークショップでトレーニングを受け、何を実現するために、何をするかということを意識してもらいながら闘うことができた。
プレカリアートユニオンでは、仲間の中から専従を含む組合の担い手を育てることに力を入れており、野村さんも専従候補として組合内でトレーニングしている。
専従候補の選定基準は、執行委員会で研修を行い検討した。要件の一つは、自分を変化させ続けられる、成長し続けられること。執行委員長も例外ではない。(プレカリアートユニオン委員長 清水直子)
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