春闘の労使交渉が本格化した。企業は空前の利益を上げながら、昨年は実質賃金マイナスという「賃下げ春闘」に転落した。底上げと併せて、働き盛りの正規労働者の過少ベア・賃金低下の克服と、分配のゆがみの是正は、春闘の大きな課題である。
●底上げへ前進の兆し
「賃金辞典」などによると、格差には、企業規模、産業、職種、学歴、地域、経験年数、年齢、男女、雇用形態があるなど多様だ。近年、中小、非正規の賃金底上げ重視で格差是正の兆しも見え始める。検証してみた。
○雇用形態間賃金格差 2017年版労働経済白書によると、パート時給は11年から上昇を続け、17年3月には1100円と、調査開始以来24年間で最高の水準となった。一方、正規の賃金(時給換算)は昨年、1988円から1984円に減少した。賃下げ阻止が重要課題だ。
○男女間賃金格差 16年の民間給与実態調査(国税庁)では、女性の平均年収は前年より3万6千円増加し、男性の6千円増を上回っている。
○規模間賃金格差 中小支援を反映し連合の17春闘では、大手のベア0・47%に対し、中小のベアは0・56%と、33年ぶりに中小が大手の賃上げ率を上回る成果を上げるなど、是正効果が見られる。
○最低賃金 17年度の引き上げ率は3・04%で、春闘の賃上げ率の2・11%を上回り、33年ぶりの「春闘超え」となった。影響率も16年は11%に拡大し、非正規の賃金改善や高卒初任給にも影響し始めている。
ただ、いずれの形態についても、賃金水準の格差は依然大きい。
●ベアゼロ7割の打開を
賃金闘争で深刻な問題は、春闘の低迷を反映し、賃金水準が97年の年467万円をピークに、16年では422万円と45万円も減少していることである。
賃金低下の要因は、非正規労働者の増加による平均賃金の低下だけでなく、賃金制度の改悪やベアゼロ、過少ベア、定期昇給幅の縮小などである。
経団連の「昇給・ベア実施状況調査」でも、ベアゼロ姿勢が目立つ。02年のベア0・0014%(2円)から17年の0・32%(971円)まで、15年間もベアは0%台と停滞している。
連合は政労使合意などを背景に14春闘から「ベア見送り」を改め、ベア春闘を復活させた。しかし、ベアの水準は14~17年でも0・4%程度で、0%台から脱却していない。
さらに問題なのはベア獲得組合が3割に過ぎないことだ。連合の17春闘では妥結4393組合のうち、ベア獲得は29・6%に過ぎない。全労連も回答引き出し1092組合のうち、ベア獲得は32・7%にとどまる。7割もあるベアゼロ組合への支援強化は重要課題だ。
●働き盛りにこそ賃上げを
働き盛りの中間層の賃金下落が目立つ。
厚労省の賃金構造基本統計調査によると、男性では99年の年562万円から16年には549万円へと13万円低下した。世代別で最も落ち込んでいるのは35~39歳で年間53万円。以降、46~49歳の23万円まで一貫して減っている。
働き盛りで中間層の一部を占める500万~1千万円未満の層では、99年の1954万人から16年の1879万人へ75万人も減少している。
経団連は17年の「政策部会報告書」で個人消費の低迷に触れ、「世帯収入の下方シフトに伴う中間層の減少」を危惧している。
労働力人口で最も多い働き盛り世代の賃金低下は、消費停滞や税収減など、日本社会の将来を危うくする。この層の賃上げ復権は国民的課題といえる。
●社会的役割の分配是正
18春闘で連合は「生産性三原則」を重視し、経団連も「労働生産性の向上」を前面に掲げた。しかし、肝心の「成果の公正配分」は破綻状況といえる。
大企業の18年3月期の純利益は前年同期比27%増と2年連続で過去最大を見込む。内部留保も406兆円と過去最高を更新し、株主配当も過去最高だ。有効求人倍率が43年ぶりの高水準という人手不足でもある。
ところが、労働分配率は16年に52・8%へと低下し、大企業では昨年9月期に45・3%(中小約75%)と、46年ぶりの低水準に下落した。分配のゆがみ是正へ、労働組合は社会的役割を発揮すべきだ。
実質賃金も17年は前年比0・2%減のマイナスとなった。消費者物価上昇0・6%に対し、所定内給与は0・4%増で追いつかない「賃下げ春闘」に転落した。個人消費も低迷、春闘の意義が問われている。
●「今闘わずして」
賃上げ要求は連合で4%以上(ベア2%)、大手金属は3%(同1%)だ。妥結では、物価上昇分と経済成長分や格差是正分をベアの内容とすべきだろう。5~6%賃上げする流通の企業も出始めた。
先行大手組合による高い水準での相場形成と波及拡大をめざすUAゼンセンの松浦昭彦会長は、物価や経済成長率などの良好な経済指標と、政府・経団連の3%賃上げ表明などを踏まえ、「今年やらずしていつやるのか」と強調。JAMの安河内賢弘会長も春闘前進へ「千載一遇のチャンス」と表明する。
中小、非正規の賃金底上げと併せ、働く人全体の賃金水準引き上げと、分配構造のゆがみ是正へ、攻めの春闘が期待されている。(ジャーナリスト 鹿田勝一)
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