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    Q&A/減るのは過労死認定だけ?/安倍流「働き方改革」の効果

     安倍政権が今国会の目玉と位置付ける「働き方改革」関連法案。長時間労働の是正がうたわれているが、実際はどうなのだろうか。

     

    ●残業が自己責任に

     

     Q 残業を規制できれば、過労死は減るよね?

     A 規制といっても、その水準が問題だよ。80時間や100時間残業する月があってもいいという内容では不十分。実際、月80時間未満で過労死した労働者が労災認定されている例もある。80時間の残業を認めるような基準では、過労死は防げないだろう。

     Q でも、上限規制が全くないよりはましでしょう?

     A 月80時間の規制からスタートして、厚生労働省が定めている残業目安の月45時間に近づけていくならまだ分かる。でも、そんな保障は全くないんだ。それより、過労死防止にとってもっと大きな問題がある。

     Q 何のこと?

     A 労働基準法改正案に盛り込まれる高度プロフェッショナル制度(高プロ制)の導入と、企画型裁量労働制の対象範囲拡大だ。高プロ制は年収などの要件をつけた上で、8時間労働制や残業代支払いのルールを外す。裁量労働制は実際に働いた時間でなく、あらかじめ決められた時間を「働いたとみなす」制度。法案では営業職などに適用しようとしている。どちらも労働時間の把握が難しくなるのが特徴で、長時間労働が自己責任にされる恐れが指摘されている。

     

    ●基準行政は大幅定員減

     

     Q 政府は働き方改革のために労働基準監督官を増やしているんでしょ?

     A その通りだけど、高プロ制と裁量労働制拡大が実施されたら、監督官の仕事はやりにくくなる。特に高プロ制は労基法ルールを適用除外するものだから、月200時間の残業も合法だし、時間を把握しなくても構わない。いくら監督官を増やしても取り締まりようがないんだ。しかもそれだけじゃない。

     Q まだ何かあるの?

     A 監督官は以前より増えたが、労働行政の定員は減る一方だ。働き方改革を推進するといいながら増員せず、逆に定員を減らすというのは理解しがたい。来年度は130人の純減で、基準行政も大幅に削減される。監督官以外の専門官が減らされるんだ。労働災害の防止を担当する厚生労働技官と、過労死や職業病の認定業務を行う厚生労働事務官は数年前から採用が止められ、今も減り続けている。

     基準行政を維持するには、監督官、技官、事務官の「3官」をバランスよく配置し協力し合うことが不可欠で、今のやり方は行政にひずみを生じさせるだけ。特に労災認定の事務官減少は大きな問題だよ。

     

    ●労災認定が難しくなる

     

     Q どうして事務官減少が問題なの?

     A 最近も、NHKや大手広告代理店の電通で起きた過労死・過労自死事件が社会や企業に大きなインパクトを与えた。いずれも労災認定され、家族らの訴えに共感が集まった。労災認定によって社会に警鐘を鳴らすことができるんだ。ところが、専門の事務官の業務が「もう限界」といわれるほど過重で、過労死事件を扱う事務官が過労死しそうな状況だという。これ以上減らされたら、過労死の認定は一層難しくなる。

     結局、今回の働き方改革で過労死は減らず、むしろ増えるかもしれない。減るのは過労死認定だけ。それでいいのだろうか。