安倍政権が進める「働き方改革」では、雇用形態間の格差縮小も柱の一つとされる。しかし、そもそも正社員の割合が少ない産業もある。アニメ業界はその代表といえるだろう。今や2兆円産業といわれる業界だが、正規のアニメーターは全体の2割以下。大多数が請負契約(出来高払い)で働いている。
10万円に満たない月収
「先月は『動画』と『仕上げ』で合計300枚ぐらい描いたかな。それでも手当を含め月の報酬は8万円程度」
東京都内でアニメーターとして働く太田一成(仮名)さん、24歳。専門学校を卒業し、都内のアニメ制作会社で働き始めて1年になる。業務委託契約で、基本的な労働条件は1日8時間拘束、週6日勤務。日曜祝祭日は休みだが、担当作業が終わらず、自主的に休日出勤したり、平日に徹夜残業することも多い。
「上司に担当分量を割り振られ、『〇日までにここまで終わらせて』と指示される。細かい作業進度は自己裁量なのでプレッシャーが大きく、徹夜になっても仮眠ができない」
ノルマとして課された作業の進行が遅い場合は、中断して別の人に回される「引き上げ」という慣行もある。出来上がったものに対して支払われるので、途中まで作業した分のペイ(賃金保障)はない。会社の規定で、絵1枚の単価は200円。これは業界相場だ。
経験や能力にもよるが、平均すると1人のアニメーター(動画担当)が1日で描ける絵は平均10枚前後なので、日給換算すると2千円にしかならない。アニメーターの平均年収が110万程度にとどまるのは、このためだ(日本アニメーター・演出協会調べ)。
太田さんの月収も10万に満たない月が多い。家賃3万円という格安の事故物件アパートに住み、移動にはできるだけ自転車を使う。中国地方にある実家から仕送りももらっているが、それでも足りないので、生活保護を毎月3~4万円程度(金額は前月の所得に応じて変動)受給している。
国が「クールジャパン」政策で、アニメを輸出コンテンツとする方針を打ち出しているが、それを下支えするアニメーターは行政の支えがないと生活できないのが現状なのだ。
使用者側も改善に意欲
アニメ業界がブラック体質なのは今に始まったことではないが、近年、少しずつ是正の動きがみられる。2016年には業界大手の東映アニメーションが、業務委託のアニメーター200人を労基法適用の契約社員に転換すると発表した。
昨年は新宿と池袋の労働基準監督署が、アニメ制作会社に職場環境改善のための講習を行っている。出席したのは会社の代表や人事労務の担当者。参加者に行ったアンケートでは、労働環境向上のためには「賃金を上げるべき」「業界全体の意識改善」との意見を半数以上が持っていることが明らかになった。
若手の定着めざして
「難しい場面をうまく描けたときは『ヨッシャ!』って思う。本当に快感です」
生活保護申請の際、職員に転職を勧められたという太田さん。仕事には喜びもあり、今はまだその選択をしたくない。「同僚たちは『こんなもんだよ』と諦めているけど、僕は状況を変えるため職場に労働組合をつくりたい。フルタイムで働く人が暮らしていけない状況は改善されるべきです。そうすれば若手も安心して仕事を続けられる」
近く個人加盟のユニオンに話を聞きに行くつもりだ。
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