欧州連合(EU)と離脱交渉を進めている英国。与党保守党はこれに併せて英議会で「大廃止法案」の制定を目指している。加盟国としてこの間、EUが作った指令(法律)を国内法化してきたが、これを全面的に見直すという。法案は1月17日に下院を通過し、上院に送られた。
先月の閣僚会議では、EU離脱強硬派のジョンソン外相やゴーブ環境相が「労働時間法をなくせ」と言い始めた。週の最高労働時間を原則48時間と定め、年次有給休暇4週間を保障した法律で、労働党政権が1999年に施行した。その6年前にEUが労働時間指令として採択していたが、保守党は導入に強く抵抗していた。
●労組は警戒強める
この法律のおかげで、週48時間以上働く人は、400万人から330万人に減少。200万人の労働者が初めて有給休暇を取得した。その多くが女性だった。この保護がなくなれば、「死ぬまで働かされる」とナショナルセンターの英労働組合会議(TUC)は強く警戒する。
TUCのオーグレイディ書記長は、EUを離脱しても単一市場と関税同盟に残ることは可能であり、英国の労働者をEU諸国の労働者と同じ権利で守ることが最善の策だと訴える。また、カナダとEUが結んだ包括的経済貿易協定(CETA)をモデルとした労働者保護を提唱するデービス離脱大臣を「不誠実」と断罪した。CETAは一部のILO条約の順守に言及している程度だからだ。
●与党は求心力低下
離脱強硬派の発言は直ちに議会で厳しく追及された。しかし、メイ首相は労働時間法を今後も守ると確約せず、EUを離脱しても働く者の権利は守られると述べるに留まった。
英国は、73年にEUの前身である欧州共同体(EC)に加盟して以来、労働法もその影響を受けてきた。だが、労働党と保守党の対応は大きく異なる。労働党政権下で98年に初めて全国最低賃金法が施行されている。同党は、英国がEUを離脱しても、労働者の権利や消費者の権利などに関するEU法を維持したい考え。一方の保守党は、スト権確立投票の基準を厳しくする法律を16年につくった。人権についても、EU水準の法的保護を取り払いたいというスタンスだ。
政党支持率は、労働党が41ポイントで保守党を6カ月連続でリードしている。メイ首相は求心力の低下が著しい。新年に足場固めで内閣改造に取り組んだが、異動を拒否する閣僚が複数現れ、人事で混乱した。EU離脱交渉の期限は原則来年3月末だが、党をまとめられないリーダーに、国民の声を聞く余裕はなさそうだ。(労働ジャーナリスト 丘野進)
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