――新年の抱負を。
安河内 まずは春闘だ。「個別賃金元年」と位置づけた昨年は取り組み組合が増え、賃金改善額も従来の平均賃上げ方式より良い結果を得た。これをさらに前に進めたい。
昨年は「組合員に説明する時間がなく、取り組めかった」との声が多くあった。1年が経ち前進する条件は十分ある。組合員23万人分の賃金分布と自社の賃金を点描したプロット図を労使で眺めながら、「うちの給与は低いよね」「このぐらいは最低でも必要だ」という話し合いをする。労使で賃金の現状と目標を共有しながら何年かけて到達するかを確認する。
賃金の水準論議なので、「トヨタがベア千円なのにうちはそれ以上は無理」という議論にはなりにくい。物価上昇も必要ない。「俺たちはこれだけ給料がないと生活できないんだ」と主張する交渉方式だ。
特に中小企業は、採用難どころか、今いる人材の流出阻止が喫緊の課題。しっかり取り組まなければならない。
●中小企業存亡の危機
――公正取引など「価値を認め合う社会」の取り組みも2年目です
中小企業の黒字廃業の問題が最近、JAM内でも散見され始めた。売り上げは伸びているのに利益が減っている企業が多い。原材料が高騰する一方で、単価は据え置きかマイナスだからだ。もうけがなければ、高齢で引退を考える経営者は自分の子どもに家業を継がせられない。中小企業存亡の危機といえる。
JAMは昨年から、製品単価の値戻しを取引先に求めるよう要請する運動を始めた。約3割の組合が値戻しを求め、85%で何らかの改善が得られた。
この問題は大手労組の理解や支援も必要。世の中の注目が集まる春闘期に強く社会に発信したい。
――労働法制改革についてはどう見ていますか?
時間外割増50%の中小企業への適用猶予を撤廃しなければならない。残業上限規制も、過労死認定基準での設定は「殺人未遂」と呼ぶべき水準。引き下げていく必要があるだろう。高度プロフェッショナル制度や裁量制拡大も反対していかなければならない。
一方、中小企業の現状は大変忙しく、総実労働時間は2千時間を超えている。多くが「残業代で飯を食っている」状況なので、減収とならない、総実労働時間の短縮が必要だ。
大手の残業削減のしわ寄せも懸念される。ある大手企業が検査工程を下請けに移し自社の時短を進めた結果、下請けの残業は増加した。十分な料金が必ずしも支払われているわけでもない。しっかり主張できる環境をつくっていく。
●青年部が出発点
――組合と関わるきっかけは?
オゾン層の破壊など環境問題への関心から、大学では農業工学を専攻し、日本で最初に田植え機を開発した井関農機に就職。トラクターの開発に関わった。
先輩のすすめで青年部長に。部員の多くが同じように先輩に言われて仕方なく来ていた。それならば慣例のスポーツ交流をやめて徹底的に話し合おうじゃないかと、「だから俺たちは労働組合が嫌いだ」というテーマの討論会を企画し、職場の声を集めてもらった。
すると、出てきたのは会社に対するたくさんの不満。組合への不満は「なぜ会社に言わないのか」という声だった。その全てに当時の書記長が答えた。この書記長が偉かったと思う。
その後、連合愛媛青年委員会の委員長を務めた。当時のメンバーの多くが組合の役員を担っていて、今も連絡を取り合う仲間だ。青年部は次世代育成に不可欠。JAMでもいつか全国に青年協をつくりたいと思う。
――技術者として入社されました。会社に戻りたいと思ったことは?
ない。後で知ったことで、節目ごとに自分を会社に戻すよう組合は求められたそうだが、社会正義を追求できる点、幅広い人々と出会える点で魅力は比べようがない。
――単組書記長時代が長かったそうですが、学んだことは?
井関農機は5年ごとに合理化を行い、07年には大きなリストラがあった。賃金カット、新たな賃金制度、M&A(買収・合併)などさまざまな困難に直面した。走りながら独学で乗り越えてきた。
心がけたのは現場主義の徹底。その都度組合員に助けられてきた。リストラが進められた当時、「組合員を守れないなら組合を解散しろ」と何度も電話をかけてきた組合員さんがいた。これに対し「執行部には組合を解散する権限は与えられていない。少しでも多くの雇用を守ることだけです」と真剣に話をした。その後、その人が組合の一番の理解者になってくれた。信念を持って対話をしていくことが大切なのだと思う。
――これからも困難が待ち受けていますね。
就任早々に民進党が分裂したからね。来年の参院選で、中小金属製造業の組織内議員の議席奪還をなんとしてもやり遂げたい。中小労働運動を連合運動の中心に据えるためにも最重要課題と位置づけている。
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