テレワークや副業・兼業の促進などを話し合ってきた厚生労働省の有識者検討会が12月19日、報告書案を大筋で了承した。経団連も慎重姿勢を示す副業・兼業については、制度上の問題が山積したまま解禁し、普及を促進する。
報告書は「社会の変化に伴い企業と労働者との関係が変化していく中、労働者が主体的に働き方を考え選択できるよう、副業・兼業を促進することが重要」と記載。企業の対応などを示した指針を設け、厚労省が示すモデル就業規則では副業・兼業を原則禁止から解禁に換え、普及を促す。
現行規制では、本業と副業の労働時間を通算し、週40時間、1日8時間労働、時間外割増の規制をかける法令解釈が採用されている。この解釈の見直し(規制緩和)や、副業先で労災事故に遭った際の補償のあり方をどうするかなどの法制度上の問題は今後、有識者による検討会を経て、労働政策審議会に委ねるという。
本来ならば法整備をしてから普及を図るのが筋。同省の担当者も「順序が逆だが、法制度の見直しを先にすると1年では済まない」と政府主導の矛盾を吐露する。働き方改革実行計画では「17年度中のガイドライン策定」が既定路線。
〈解説〉労働者保護が危ない
政府主導で結論ありきのレールを敷き、検討会に利害関係者を入れた。クラウドソーシング協会など、発注・求人者と働き手との仲介事業を行う人材ビジネス系業界団体の代表を委員に選任した。同省は「新しい業界の意見を聞くため」と話すが、この委員の役割は単なる意見聴取の対象ではない。規制強化をけん制し、規制緩和の方向に誘導する発言を頻繁に行っていた。ルールの適用対象になる業界団体がルールづくりに関与する構図は、2015年の派遣法改正審議を想起させた。労使の代表は1回の意見聴取で済まされている。
19日の最終審議では暴論も飛び出した。推進論を展開してきたロート製薬の委員が、労働時間通算制度のないインドやシンガポール、中国などを引き合いに日本の制度を批判。指針案に安全配慮義務規定があることに「副業・兼業の進む方向にブレーキをかける」と強い違和感を表明した。
これにあからさまに同調する意見こそなかったが、労働時間通算制度の撤廃は推進派がそろって主張していたこと。個人請負の契約にすれば副業先に安全配慮義務は生じない。この政策を進める根底に、労働時間規制に守られず、安全も自己責任とされる将来の労働者像が隠されていないか。労働者保護の骨抜きに注意が必要だ。
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