「働き方改革を医療の現場で、本当にやったら大変なことになりますよ」
先日、新潟県の医師会幹部たちとの懇親会に出席すると、ある幹部は冒頭、こんな物騒なことを言い放った。
報道各社との年に1度の懇親会、医師が不足する中で、働き方改革を進めることがいかに困難かを訴えたかったようだ。「マスコミの方も働き方は、大変でしょうから、分かりますよね」。各社幹部は顔を見合わせて苦笑いしていた。働き方改革の本音と建前。管理職側の本音がとても良く出ている場面だと思った。
●深刻な医療職場
新潟の医師会幹部が、なぜこんなふうに嘆いて見せるのかと言えば、医療現場の働き方が厳しい批判にさらされているからだ。きっかけは、新潟市民病院での女性研修医(当時37歳)の自殺である。月平均残業時間は、認定されたもので過労死ラインを大きく超え、最も多い月は162時間に達し、労災も認定されている。
女性が働いていたのが市民病院であることから、新潟市も鋭く責任を問われた。篠田昭新潟市長は、労災認定前は「36協定通りに仕事をしたら、市民サービスにも影響する」と、市のトップが労基法を無視するかのような発言で物議を醸した。だが、労災認定後は、一転して「真摯(しんし)に受け止めている。医師の長時間労働是正に取り組む」と言わざるを得なくなった。
そんな経緯から、医療現場での働き方改革にハッパをかけ、医師会側は悲鳴を上げる…という構図だ。もちろん、新潟の事情もある。新潟県は人口10万人当たりの医師数が205人で全国平均の251人を大きく下回り、全国ワースト5位なのだ。その中で長時間労働削減をメーンとした働き方改革をしようとすれば、「頭が痛い」というのも分からないではない。
●掛け声だけではだめ
だが、しかし、トップがこんな感覚では、長時間労働の削減なんて夢のまた夢。長時間労働の削減には、仕事量と人員の見直しが欠かせない。なのに、そこに目をつぶり、「無駄な残業をなくせ、とにかく減らせ」のお題目だけでは、長時間労働はサービス残業として目に見えないものになるだけだ。
医師会幹部にそう言うと「理屈では分かるけど、ホントに医師が足りない。途上国並みだ」とまで言った。意地悪と思ったが、こう反論した。「医師が足りない責任のいくらかはあなた方にもあるのではないか。利益を取るため医師の数の抑制を求めたのではないか? 36協定もまともに機能しないような職業にこれからも人が集まると思うのですか?」
命に関わる現場で、いきなりドラスティックなことができないのは理解するが、長時間労働削減への本気度を示さないなら、医師だけではなく患者も含め、みんなが不幸になるということに気づくべきだ。同様に働き方の見直しが本格的に議論されている教育の現場、報道、もの作り、流通・サービス、運輸…。労働力人口が減る中で、あらゆる働く現場で、人間らしい働き方が追求されなければならない。
医師だから、教師だから、何々だからと聖職論を語られても、全く同意できない。そこで働いているのは人間だから。ちゃんと寝て、ちゃんと社会生活を営む時間がなければならない。
冒頭の言葉に戻る。働き方改革を「本当にやったら大変なことになる」のではない。「本当にやらなかったら大変なことになる」のだ。年の瀬に、忙しく働く職場の仲間を見ながら、来年こそはと心に誓う。
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