中堅・中小の金属関係労組でつくるJAM(約35万人)の安河内賢弘会長はこのほど、政府が経済界に行った賃上げ要請について「少し的外れだと思う」と述べ、中小企業の目線に立った政策が必要と語った。大手企業の「働き方改革」が、下請けである中小企業の残業増につながっている現状を指摘し、「大手と中小では見える風景が全く違う」と対策を求めた。都内で開いた春闘方針案に関する会見での発言。
安河内会長は、政府が賃上げの旗を振る「官製春闘」について、「最初は驚きもし怒りもしたが、5年目の今年は『またか』という印象でしかない。税・財政面で(賃上げを)後押しすることはありがたいが、残念ながら現実は、笛吹けど踊らずということだろう」と違和感を表明。首相が経団連に3%賃上げを要請したことには「少し的外れだと思う。経団連の会長、副会長の企業に(賃上げが)必要なのか。むしろ、中小企業の健全な発展という視点に立って、製品単価、取引価格の見直しを促すことが必要ではないか」と苦言を呈した。
JAMが加盟組合に行った景況調査では、300人未満の中小企業で、売り上げが伸びているのに、経常利益の減少を報告した単組が多数あったことを紹介し、「原材料が高騰している一方で、製品単価が上がっていないからだ。逆に単価がマイナスの企業もある。原材料を仕入れ、部品を納入している企業の収支を圧迫している」と問題点を指摘した。
単価の抑制で収益が圧迫され、自分の子どもに家業を継がせられず黒字廃業をする中小企業が増えていることに触れ「これまで年に1件あるかないかだったのが、今は毎月1、2件のペースで散見される。先月は2件あり、加盟組合が解散を余儀なくされた。この社会の状況を変えていくためにも、(中小企業の労働と製品の価値を適正に評価するよう求める)『価値を認め合う社会』の取り組みを今年はさらに一歩前に進めていきたい」とした。
さらに、政府が進める「働き方改革」の影の部分を次のように指摘し、改善の必要性を強調した。
「大手企業が自社の残業を削減しようと、業務の棚卸し(再点検)を行った結果、検査工程の一部を取引先(の下請け企業)に委ねるケースがあった。価格面で十分な手当てがあればいいが、必ずしもそうではない。『残業を減らせ』の掛け声を強めるほど、中小企業の時間外労働が増えていく。大手と中小とでは見えている風景が全く違う」
JAMは18春闘で、あるべき賃金水準への到達をめざす個別賃金の取り組みをさらに強めるとともに、平均賃上げ要求では6千円基準のベアを求める方向で方針を検討中だ。
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