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    沖縄レポート/米軍基地集中ゆえの県民被害/うるま市殺人事件の裁判

     「スラッパー」という言葉を初めて知った。昨年4月に沖縄県うるま市で発生した米軍属女性暴行殺人事件で、米軍の軍属だった男が使った凶器の名前である。

     

    ●遺族の悲痛な訴え

     

     11月16日、那覇地裁で裁判員裁判が始まった。これまでの報道で、被害者の背後から棒で頭部を殴ったとされてきた。その「棒」こそ「スラッパー」である。琉球新報は今回「打撃棒」という表現も使った。朝日新聞は「革袋に重りが入った鈍器」と表現した。革製の袋に鉄や鉛を入れた武器だ。護身道具としてネット通販もされているが、容易に骨折させる威力があり、武器である。

     被告の言い分はこうだ。スラッパーで殴って気絶させ、トランクに入れてホテルに連れ込み暴行しようとしたが、気絶しなかったので被害者を抱えて草むらに飛び込んだ際に地面に頭部を打ち付けて死亡した可能性がある。殺意はなかったという主張だ。裁判では、殺意の有無が争点になる。しかし、スラッパーやナイフ、スーツケースを準備して暴行相手を物色して車を走らせたことは計画的というしかない。

     11月24日に論告求刑、12月2日に判決の予定だ。第2回公判で被害者の父親が意見陳述し「被告人を許すことはできません」「命をもって償ってください」と訴えた。母親の陳述も代読され、「私の心は地獄の中で生きています」と悲痛な思いが吐露された。

     

    ●無意味な「綱紀粛正」

     

     今回は公務外の犯行であり、身柄を基地外で確保されたため、日米地位協定上の身柄引き渡し問題は起きなかった。しかし、被告は基地内でスーツケースなどを廃棄して証拠隠滅を図っていた。日本の警察は基地内での捜索などはできず、基地外のごみ処分場で基地からのごみを調べるなどしたが、結局見つからなかった。一般的に捜査が制約を受けることは少なくないのだ。

     スラッパーを入手して使いこなしていることやナイフの使い方を見ると、軍隊で訓練を受けた者だからこそと思える。このような人物が基地と民間地域を簡単に行き来し、暴行相手を物色する。日本の警察の捜査は制限され、証拠隠滅も容易にできてしまう。裁判もスムーズに進まず、被害賠償もままならない。これも沖縄への米軍基地集中を放置してきたことの「罪」の一つではないか。

     この裁判の審理が続く中の19日早朝、飲酒した米海兵隊員が公用車である軍のトラックで信号無視をして衝突事故を起こし、男性を死亡させた。こんな時間帯になぜ公用車を飲酒運転できるのか。「綱紀粛正」という掛け声が無意味であることを沖縄県民は身に染みて知っている。米軍を沖縄に集中させておくことの「罪」を問う声はさらに高まるだろう。(ジャーナリスト 米倉外昭)