昨年7月に神奈川県相模原市の県立障害者施設「津久井やまゆり園」で45人が殺傷された事件から1年。事件の取材を続けてきた神奈川新聞の成田洋樹記者と、「障害者の自立と文化を拓く会『REAVA』」代表で脳性まひ当事者の渋谷治巳さんが10月7日、「やまゆり園事件は何を問いかけているか」をテーマに講演した。主催は日本ジャーナリスト会議神奈川支部。
●大規模施設で良いのか
成田記者は「障害者と地域との共生の議論はスタート地点に立ったばかり」と指摘した。事件後、やまゆり園の再建を巡って神奈川県は当初、これまでと同じ大規模施設再建案を予定していた。しかし、障害者団体や専門家から「時代錯誤」との反対意見が続出。現在、黒岩祐治県知事は大規模施設より自由度の高い、グループホームなどを活用した地域移行に取り組む考えを示している。
事件当時、園には157人が入所していた。成田記者は「そもそもなぜそこまで大勢の人たちが、交通アクセスの良いとは言えないやまゆり園で生活しなくてはならなかったのか。背景には障害者が地域から排除されてきた事実がある」と述べた。
地域での重度障害者受け入れは困難との声もあるが、県内では受け皿を作ろうという動きが広がっている。「一つの場所だけでなく、障害のある人を受け入れる、複数の『頼れる先』をつくっていくことが必要だ」と強調した。
●差別生みやすい環境
成田記者は「植松聖被告が施設の元職員だったことも深刻な問題だ」と語る。「大規模な入所施設は地域から隔離されており、施設の中で完結する支援は管理的になりがち。障害者を排除するという、被告の差別的な思想は施設で働いていたからこそエスカレートした可能性がある」の見方を示した。
自身も脳性まひの障害がある渋谷治巳さんは「1996年まで、日本では優生保護法によって不要な人間は生まれてはならないと規定されていた。この差別的な考え方が事件では最悪の形で現れた。障害者はいない方が良いと考えるのは被告だけではない」と述べた。その上で「特異な人間が起こした特異な事件と捉えるのではなく、社会全体で差別をなくすよう取り組んでいけるかどうかが問題だ」と訴えた。
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