安倍首相は「税の使い方」を総選挙の争点に挙げ、増税分を社会保障拡充の財源にすると言っている。しかし、これまでの政策で格差はさらに拡大しているようにみえる。貧困問題について取材を続けている作家の雨宮処凛さんに話を聞いた。
――安倍政権の社会保障政策をどう見ていますか?
貧困を悪化させ続けた5年間でした。2012年に自民党は生活保護給付10%引き下げを公約に掲げて政権に復帰。その後も毎年のように引き下げを進め、現在も厚生労働省で2018年度からの見直し案について議論をしています。
「景気を回復させる」というスローガンを掲げながら暮らしの底上げを行わず、貧困層など「最も困っている人たち」を切り捨ててきたのが安倍政権だと思います。そのことの是非をまず選挙では問わなければなりません。
他にも、秘密保護法から始まって安保法、共謀罪法を、プロセス無視のむちゃくちゃな手段で成立させてきました。反対運動は広がり世論を動かしましたが、安倍政権はそんな国民の声を全て無視。今回の選挙は「こんなに国民の声を聞かない人たちに政治を任せていいの?」という問いを突きつけるチャンスです。
●いびつな自己責任論
――貧困による社会の分断は深刻化しているように見えます。
派遣法改悪などを経て非正規労働者をはじめとする、働きながらも貧困から抜け出せないワーキングプアと呼ばれる人々が増加しました。
労働者階級と富裕層の分断が社会問題化している英国では、「チャヴ」と呼ばれる、白人労働者階級の若者たちがいます。格差によって生まれた新しい被差別階級というべき存在で、「彼らは自己責任で貧困に陥って福祉を食い物にしている」とさげすまれています。日本で起きている貧困バッシングにも共通する構造があります。
ワーキングプアが増加し「一億総中流社会」が崩れた日本では、貧困層とそうでない人たちの間に大きな断絶が生じています。多くは貧困層が直面している問題を理解できないため、彼らを「自業自得で努力の足りない人々」と思っている。それだけでなく、非正規労働者やブラック企業の社員など、自分も困窮しているはずの人たちが、生活保護受給者を「怠けている」といってたたく。
格差を生み出している政府へ向けられるべき怒りが弱者に向けられるという、いびつな状態が「貧困バッシング」の正体です。
●社会に目向けてほしい
――「自己責任論」の克服に必要なことは?
望んでいるのは、「普通に働いたら普通に生きられる社会」。決してぜいたくな要求ではないはずです。貧困当事者も「今の生活が苦しいのは自分のせい」「自分の努力不足」と思ってしまいがちですが、それは本当にあなたのせいですかと言いたい。
貧困層や自分自身の困窮を「自己責任」と責める前に、「社会に目を向けてみよう」と声をかけるところから対話を始めてはどうでしょうか。
自分よりもさらに弱い人をたたく貧困バッシングが続く限り、政権は批判の矛先を向けられずに済みます。「生活が苦しい」「弱者を切り捨てる政治で良いのか」――そうしたストレートな怒りで政権をジャッジしてみてください。
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