安倍首相が「国難突破」と名付けた今回の総選挙。「国難」の一つに挙げられたのが北朝鮮問題だ。危機は本当に迫っているのか? 元外交官で評論家の孫崎享(うける)氏に話を聞いた。
――北朝鮮問題を「国難」とした判断をどう評価しますか?
ミサイル発射や核実験に合わせてあおり立てられたのが今回の「北朝鮮危機」。国民を不安にさせることで、政権支持率を高め、選挙を有利にというものでしかありません。
例えばJアラートです。ミサイルの着弾地点は襟裳岬から2千キロの太平洋上でした。東京から北京と同じ距離です。にもかかわらず、避難警報が鳴らされた。あまりにもいい加減です。
中国やロシアも核兵器を持っていますが、それについては「国難」と騒ぎ立てていません。日本を攻撃する理由がないと分かっているからです。北朝鮮についても同じことがいえます。
――日本を攻撃する理由はないということですか?
米国と一緒に、北朝鮮を軍事的に敵視しなければ、北朝鮮が日本を敵視する理由もなくなります。ところが、安倍首相は国連総会で「対話は必要ない」と演説しました。国際紛争の平和的解決をうたう国連憲章からも逸脱しています。
「対話は無駄骨」と安倍首相は説明しますが、実はこれまでの交渉で日本政府は「金政権を排除(政権転覆)しない」という保証に言及していません。
元米国務長官のヘンリー・キッシンジャーは、核兵器を保有した中小国の行動について「国の崩壊の危機には必ず核を使用する」と分析した上で、「核を使わせないため、超大国は中小国の政権を軍事的に排除しないと約束しなければならない」と提唱しています。求められているのは、この原則に則った対応です。
――逆に米朝の挑発合戦は激しさを増しています。
米国は、北朝鮮との戦争になれば、核抜きでも韓国の首都ソウルが報復攻撃を受けて何十万人もが犠牲になることを理解しています。安倍首相もそのことは分かっていて、戦争が起きるとは全く考えていないはずです。
もちろん北朝鮮から軍事攻撃を仕掛けてくることもあり得ません。金政権の自殺行為になるからです。
米国が北朝鮮との舌戦をやめないのは、朝鮮半島の緊張状態を続けることそのものが目的です。危機をつくり出すことで、日本に武器を売り付け、集団的自衛権による自衛隊派遣で米軍の肩代わりもさせられる。韓国についても同じです。
軍事的手段で平和はつくれない。平和は平和的な手段でしか成し得ない――これが日本の戦後の出発点だったはずです。その原点に立ち戻るべきです。
(文責記者)
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