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    「法理念が欠落している」/働き方改革関連法案/浅倉むつ子早稲田大学教授

     生活時間確保の観点から長時間労働の是正を訴えている労働法学者の浅倉むつ子早稲田大学教授が9月22日、働き方改革関連法案について「法理念が欠落している」と指摘。「見るべきメリットがない」「高度プロフェッショナル制と一緒にするならば葬り去るしかない法案だ」と述べた。労働法制中央連絡会が国会内で開いた総会での講演。

     実行計画では、「労働生産性の向上」「労働参加率の向上」「出生率の改善」などの経済政策を進めるための言葉が多く使われている。浅倉教授は特徴をこう指摘した上で「働き手の基本的人権と、経営者の経済権との相克(せめぎ合い)を調整する理念が欠落している」と指摘した。

     ドイツでは「良質な労働」、ILO(国際労働機関)や英国では「ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)」などの理念が労働政策の基本に据えられているという。日本でも民主党政権時に策定された、国の「望ましい働き方ビジョン」で、非正規労働について「公正な処遇の下でのディーセント・ワークを実現」と記されていた。

     教授は「なぜ労働法政策に必要な理念がなく、ベタな経済政策の言葉ばかり出てくるのか」と疑問を投げかけた。

     

    ●懸念される「逆効果」

     

     「同一労働同一賃金ガイドライン案」については、差別を禁じた普遍的な人権保障規定である「同一価値労働同一賃金」とは異なる概念だと指摘。賃金を実際の職務に応じて支払うという原則が盛り込まれない不十分さを指摘した。

     残業上限規制が過労死認定基準の水準となったことに関しては「ワーク・ライフ・バランス実現のための効果はない」と述べた上で、「現在では大半の協定が大臣告示(月45時間・年360時間)内でクリアしているが、(月百時間未満、2~6カ月平均80時間の)限度基準に合わせられることになるだろう。長時間労働を助長するグレーゾーンの拡大が懸念される。逆効果だと思う」と語った。

     1日単位の規制である勤務間インターバル(休息時間保障)が、効果が薄い努力義務にとどめられたことにも触れつつ、「一括法案はどうみてもメリットがあまりないと言わざるをえない。高度プロフェッショナル制度と一緒にするならば葬り去るしかない法案だ」と断じた。