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    今から法改正への対処を/水町東大社研教授/働き方改革の労組セミナーで

     政府の「働き方改革」を主導した水町勇一郎東京大学社会科学研究所教授が9月19日、連合東京主催の会合で講演し、今から法改正への対処が必要と語った。長時間労働対策、非正規労働者の処遇改善を進める上で、労組の役割が重要だと強調した。

     

    ●複雑な長時間労働対策

     

     長時間労働対策では、大臣告示である「月45時間年360時間」が残業上限の原則として法制化される。その上で、繁忙期などの例外として(1)月100時間未満、2~6カ月平均80時間以内(2)年720時間以内で、月45時間を超える月が年6回を超えない――の範囲で特別条項を設けることができる。

     (1)の上限は休日労働を含み、(2)は含まない。大臣告示が労基法に位置づけられた以上、守られなければ罰則の対象となる。

     水町教授は、(2)の残業が45時間を超える月が年6回を超えてはならないという規定の順守が最も困難なのではないかと指摘。労使の意識的な取り組みが必要と語った。

     

    ●「寸志ではダメ」

     

     昨年示された「同一労働同一賃金ガイドライン案」は、雇用形態間の均等・均衡処遇を定め、一時金については「会社の業績等への貢献に応じて支給しようとする場合、(略)同一の支給をしなければならない」としている。案は今回の改定で法制化される。

     水町教授は「貢献が同じならば正社員と同じ月数でなければならないということ。(貢献が同じでなくても)3万円程度の『寸志』でお茶を濁すのは許されない」と釘を差す。

     基本給については「最終的には正社員の賃金制度に位置づけた上で、均等・均衡処遇を図るべき。均等・均衡(※)でなければ違法となる」と注意を促した。

     

    ●実効性薄く

     

     派遣労働者については、派遣先の正社員との均等・均衡処遇が義務付けられるが、例外も設けられた。派遣元で労使協定を結ぶケースである。同種の業務の正社員の平均賃金以上であることなどを満たせば可能。

     教授は「原則は派遣先正社員との均等・均衡処遇だが、ほぼ例外方式となるだろう」と見る。派遣先が自社社員の賃金情報を積極的に提供するとは考えにくいというのが理由。目玉政策の一つである、派遣先との均等・均衡は実効性が乏しいということだ。

     

    ●「組合は覚悟を」

     

     新たな改定では、待遇差について使用者に説明義務を課す。差が不合理かどうかは、一時金や役職手当、通勤手当など「個々の待遇ごと」に判断する。理由を説明できなければ不合理な格差とみなされる。

     そのため、組合の合意を「不合理ではない」ことの根拠にしようとする使用者が増えるとの見方を示し、次のように語った。

     「施行予定の19年4月までにいかに非正規労働者を組織化するか。当事者の声を反映していれば(裁判官に)前向きに評価されるだろう。反映していない合意だと、どこまで斟酌(しんしゃく)されるか分からない。欧州では、非正規を組織していない労働組合の労働協約締結能力を否定した裁判例もある。組合が制度創設に参画するとともに組合員にすることが大事。組合は覚悟を決めなければならない」

     

    ●総額人件費一定もだめ

     

     非正規労働者の処遇改善を手がけようとする際、経営側が「総額人件費、全体のパイは変えない」と主張する事態も想定される。既存の正社員の賃下げを念頭に置く考え方だ。

     水町教授は、働き方改革には、デフレ脱却のための賃上げを社会の隅々に行き渡らせる政策目的があると指摘。「『総額人件費は一定』とは言ってはならないのが、今回の改革だ。増えすぎた内部留保の中から人件費を増やし、労働分配率を高めていかなければならない」と意義を語った。

     

    ※均等と均衡

     均等処遇は、同じ処遇、イコールであること。均衡処遇は、処遇や人材活用のあり方によって、バランスある処遇にするという考え方。均衡処遇は欧米にはない概念。