ロンドン交通局は9月22日、アプリを使って配車するウーバー社の営業免許について、更新申請を却下すると通達した。同社が「企業責任に欠け、公共の安全と安心を潜在的に脅かしている」ことを理由に挙げた。重大犯罪の報告や運転手の健康記録・犯罪歴に関する情報提供が不適切だったと判断したのだ。
ロンドンでは10日に一度のペースでウーバー運転手による婦女暴行事件が起きており、警視庁も問題視していた。偽アプリを見せて規制当局の捜査を欺くソフト「グレイボール」を使っている嫌疑も晴れなかった。営業免許は5月の段階で更新されていたものの、4カ月の延長しか認めない扱いだった。
●緩い規制も守れず
この決定について英国労働組合会議(TUC)は「ウーバーの自業自得であり、シェアリングエコノミーの経営者たちに対する警鐘だ」と強調した。その上で、10万人署名の取り組みなど反対運動を担ってきた全国都市一般労組(GMB)の健闘を称えた。カーン市長も交通局の主張を全面的に支持している。
一方、ウーバー社は「消費者の選択肢を制約したい一味に屈服した決定」と反発している。
英国には、予約専用で自家用車を使う配車サービスのプライベート・ハイヤー車(PHV)がある。ロンドン名物の個人タクシー、ブラックキャブより割安で、通称ミニキャブと呼ばれる。タクシーの供給が不足していたロンドン郊外で1960年代から普及し全国へ広がった。長年白タク同然だったが、2001年から規制を設け、5年ごとの更新を要する営業免許制とした。
ウーバー社もミニキャブのルールに従って12年から営業していたが、今回はその緩やかな基準さえ守れないと判断されたのだ。ロンドンでは現在、10年前の3倍となる12万人が登録している。資格試験が厳しいブラックキャブは、この間ほぼ横ばいの2万人で推移している。
●時給が450円以下?
超党派で交通局に意見書を提出した国会議員たちは安全問題に加え、ウーバー運転手の実収が時給換算で3ポンド(450円)に満たないことや、オランダを本籍地として英国で納税していないことを批判した。
ジョンソン外相もロンドン市長時代にウーバー社の規制を試みたが、同じ保守党のキャメロン首相(当時)に「待った」をかけられた。首相の側近が同社の女性幹部と結婚した後、夫婦で同氏の息子の名付け親になったという親密な関係が背景にあったという。
同社は、営業免許が9月末で失効するため、即日異議を申し立てた。審査には少なくとも数カ月かかる。その間4万人のウーバー運転手は営業を続けられる。なお、出前サービスのウーバーイーツは対象外である。
●抵抗続けるウーバー社
ロンドンのウーバー社は「決定の破棄を求める」オンライン署名を直ちに開始した。24時間で60万人が賛同するペースだが、ロンドン市民だけが署名しているとは思えない。デンマークでも今春、同様の事態でウーバー社が展開した署名には「北欧人らしからぬ名前が3割ほどあった」という証言もある。
9月24日付のサンデータイムス紙は、ロンドンウーバーのゼネラルマネージャーがカーン市長との面会を求めており、「安全対策と運転手を従業員とみなすこと」で譲歩できると示唆したと伝えている。ただし、この内容はオンライン署名のページには記載されていない。ロンドン交通局はコメントを控えると同紙に回答している。(浦田誠・国際運輸労連内陸運輸部会長)
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