今年の地方最低賃金審議会では国の中小企業支援の強化や社会保険料の事業主負担の軽減、公正取引などを求める答申文が目につく。早期の「最賃千円」実現には、中小企業への支援をいかに充実させるかが鍵となる。
●街頭宣伝活動を強化/山形
連合山形は今年、最賃改定審議に合わせ、街頭宣伝を例年より多い5回行い、審議会への傍聴行動も組織した。鈴木正弘福祉対策部長は「セーフティーネットとして極めて大事だという位置づけと、南東北で格差が広がり、一向に縮まらない現状をアピールした」と話す。
結果は昨年同様、目安通りだが、変化はあった。昨年は使用者側全員が反対したが、今年は全会一致の賛成となったのである。
山形県は6月、地域間格差の拡大による人口流出を問題視、最賃の引き上げ幅を分けるランク制度の見直しや全国一律の適用を初めて国に要望した。県は地方創生戦略で若者の定着を打ち出し、中小企業への賃上げ支援では、非正規労働者の賃金を引き上げた企業に助成する国のキャリアアップ支援制度に上乗せする形で、県独自の支援を今年度から始めている。
こうした取り組みもあって、使用者側も引き上げ反対一辺倒ではいられなくなりつつあると、鈴木氏は語る。世論喚起とともに、連合本部が呼びかける、経営者や行政関係者と懇談する地域フォーラムなどの対話も通じながら、最賃引き上げへの共通認識を築きたい考えだ。
●制度の変質問う声も/京都
京都の改定答申には、国への厳しい付帯条項が付け加えられた。最賃を引き上げた中小企業に支給する国の業務改善助成金について、「『総合的で抜本的な支援』というには極めて不十分」「目的を十分に果たせていない現状を改めるべき」と強い言葉で改善を求めている。
付帯条項は、事業者が容易に活用でき、賃上げにつながる新たな対策が必要だと指摘。国に対し「省庁の垣根を越えた(略)真に『直接的かつ総合的な抜本的支援策』を至急講じることを強く求める」と結んだ。昨年は「あまねく使える制度」を訴え、今年は「使えない」と厳しく断じたのである。
金額改定には使用者側全員が反対したが、付帯条項については公益、労使の総意として確認された。
京都府内の助成金の適用件数は、14年度の37件が15年度には8件に激減。京都の最賃が支給対象の基準である「800円以下」を越えたためだが、基準が「1000円未満」に引き上げられて以降も増えていない。
助成金を受けるには設備投資が必要で、京都に多い小売やサービス業には使いにくく、その対象も普通乗用車やパソコンが外されるなど利用しにくくなっているという。
京都総評の梶川憲議長は「アベノミクス下で制度が変質していないか。最賃引き上げを支援し経済の相乗効果をつくる目的がなくなり、『つぶれる中小企業はつぶれたらいい』と自然淘汰(とうた)を促しているのではないか」と疑問を呈し、制度の改善と抜本的な予算の拡充を求める。
●中小支援要望が奏功/大阪
最賃の大幅上昇に伴い、答申で中小企業支援の利便性や即効性の改善を求める事例が目につく。
大阪は昨年に続き、国の中小企業支援の利活用促進や、自治体発注事業の契約料金について年度途中で最賃上昇分を反映させること、公正取引の促進などを要望し、施策の検証と報告を求めている。
この「検証と報告」が昨年盛り込まれたことを受けて、今年の最賃審では、労働局が1年間の活動実績を報告した。各市町村への啓発活動や、信用金庫など金融機関との提携、鉄道各駅へのポスター張り出し、商店街、自治体、学校へのリーフレットの配布、約6千事業場への監査など事細かな内容だったという。答申での注文が行政に緊張感を与えた。
今年初めて900円台に乗せ、改定で賃金を上げなければならない労働者の割合を示す「影響率」は20%を超えたが、昨年に続き全会一致で了承された。
連合大阪の井尻雅之副事務局長は「大阪は公益、労使の信頼関係が良好で、良い議論ができた」と述べた上で、「賃金の底上げ・底支えには国の中小企業支援措置をしっかり周知させることが必要だ。その点で大阪労働局は自治体への働きかけなど周知活動に努力している。そうした姿勢への信頼があるのではないか」と話している。
秋田では取引条件と社会保障政策について、より一層の改善・検討を求める一文を添えた。秋田労働局によると、社会保険料の事業主負担軽減のことであり、福島でも昨年に続き、社保の事業主負担軽減を盛り込んだ。
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47都道府県の最賃審で、答申をホームページで公表している労働局はおよそ2割。他はプレスリリースによる要約か、全く公表していないところもある。厚労省によると、公開するかどうかの扱いは地方最賃審の裁量に委ねており、非公表の地方の答申を知るには、情報公開法による情報開示請求が必要になる。(おわり)
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