政府は高度プロフェッショナル制度(高プロ制、残業代ゼロ制度)導入や裁量労働制の対象範囲拡大、時間外労働の上限規制などを一本化した働き方改革関連法案を、秋の臨時国会に提出する予定だ。連合は7月、政府に「修正要請」を行ったものの、高プロ制を「事実上容認するもの」と内外からの批判を受け、政労使合意には至らなかった。この間の連合の対応と現状をどう見るかについて、民主党政権時代に参院厚生労働委員長を務め、その後も厚労委の野党筆頭理事だった津田弥太郎元参院議員(民進党)に聞いた。
労働基準法改正案の修正をめぐる、一連の連合の対応をどう見ますか?
まず、労働運動を担う連合の役割と、最終的に国会で法案対応を行う議員ら立法府の役割とは違うということを押さえておきたい。 連合が労働運動、大衆運動として法案に注文を付けるのは当然だ。組合員への教宣、集会、シンポジウムなどを通じて問題点を追及。デモや政府への抗議を重ねる中で世論を味方に付け、審議会でも意見を言って自らの方針を法案に反映させる努力をすべきだ。ただ、その上で政府が出してきた法案への対応は、国会の役割である。
今回の法案修正をめぐる「政労使合意的なるもの」は、私の聞く限り、最低限の要求が入れられたから合意することにしたというもの。使用者側が相当に譲歩した内容ならば評価できるかもしれないが、それが見えない。経団連がOKしている中身では、への突っ張りにもならないだろう。
予定されている法案のポイントは高プロ制導入と、時間外労働の上限規制の二つだ。加えて、中小企業への時間外割増率50%の猶予措置撤廃や裁量労働制の適用対象の拡大。私が議員だった昨年の夏までは、この問題で連合はもちろん、参院厚生労働委や政府とも議論を重ねてきた。特に私は長時間労働の是正には、上限規制と併せてインターバル規制の義務化が不可欠だと言い続けてきた。今回の「合意的なるもの」には、その議論が全く反映されていない。何もない。
連合は中小企業への猶予措置撤廃などを評価しています
猶予措置は撤廃して当然。もともと法の下の平等原則に反するダブルスタンダードだ。早く解消すべきだったし、とても交渉ごとの材料になるものではない。それを勝ち取ったかのように言うのは間違いだ。
本来、連合が考えるべきことは、どうやったら過労死をなくせるのかだ。遺族が裁判で勝ち、以前より労災認定も進み、防止法もできた。過労死を防止する上で追い風が吹いている時であり、連合は強気で取り組むべきなのに、なぜ政府に「最低限の是正」を求めたりしているのか。
私は、長時間労働を是正し、過労死をなくすにはインターバル規制が不可欠だと考えている。議員時代からずっとそう思ってきた。すぐに義務化するのは困難かもしれないが、時間をかけても確実に実現する道筋をつくるべきだろう。修正というなら、せめてその道筋を書き込むことが必要だ。残念ながら、今回の修正要請でインターバル規制が重要視された気配がない。後輩の民進党議員にはそうした私の問題意識を伝えてきたから、彼らも今回の連合対応には戸惑ったのではないか。
組合内の手続きという点でも問題があったと指摘されていますね
まずいやり方だったと思う。政府と秘密裏に交渉していたわけで、それならば結果を明らかにした時点でみんなが納得する中身でなければまとまらない。そこの見切りを失敗したのではないか。
官邸は(連合内で合意できるかどうかの)見通しを持っていたのかどうか。官邸が無理なら、厚労省がきっちり見ておく必要があっただろう。状況によっては官邸に対して(合意に)「待った」を掛けるくらいの存在であってほしい。労政局があった時代に比べると、組合への情報収集能力は落ちている。
(官邸との交渉を主導した)逢見直人事務局長は、私とは長い付き合いだ。官僚との面識・交流がとても多い。それは強みでもあり、弱みでもある。連合が掲げる「力と政策」で言えば、私は力を重視するタイプだが、逢見君は政策で運動に貢献したいと考えるタイプだ。政策マンには落とし穴がある。自分でものごとを進めたときに自画自賛しがち。それと大衆の評価とは別なのだと気付きにくいきらいがある。やはり力と政策のバランスを取りながら前へ進めることが必要なのではないか。
秋の臨時国会に関連法案が提出されます。どう対応すればいいでしょう
政府は一本化の準備を進めている。それは労政審で2、3回審議した程度では済まないだろう。連合は「合意なんかできない」と徹底的に闘うべきだ。私はインターバル規制に道筋を付けてほしいと考えるから、大激論になって当然。本来の労働運動のあるべき姿に立ち返り、原則に忠実に闘ってほしい。国会審議で政府から「連合もOKしている」なんて言われたら、やりにくくてしようがない。民進党をはじめ野党議員の多くはそう思っているのではないか。
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