韓国の最低賃金を2020年までに1万ウォン(千円)に引き上げるという、文在寅(ムン・ジェイン)新政権の公約の実現が現実味を帯びてきました。7月に確定した18年の改定額は、16・4%アップの7530ウォン(753円)。あと2年、同率で引き上げると超過達成します。そのための中小企業支援策として3兆ウォン(3千億円)規模の予算案を計上するなど、底上げへの腰を据えた政策を進めているのが特徴です。
●ポイントは中小支援
大統領選の争点にもなった最賃1万ウォン実現は、各候補者間で達成時期についての温度差はあったものの、水準への大きな異論はありませんでした。労働政策研究研修機構・労使関係部門主任研究員の呉学殊さんは「『企業に投資すればそれが滴り落ちて、人々に行き渡るというトリクルダウン効果はない。国民の所得を高め、格差を是正してこそ経済は発展する』という共通認識ができている」と話します。
韓国の最賃は、原則全員に適用されるようになったのが01年。その後の急激な景気回復に伴い2桁の伸びが続きました。近年の保守政権下でも、世論に押される形で5~8%の高率で推移してきましたが、経済界は反発を強めています。
最賃改定を決める今年の最低賃金委員会(労使と公益各9人で構成)では、労働側が1万ウォンへの引き上げを、使用者側は中小企業の経営難を理由に凍結を主張し、交渉は難航。新政権は大規模な中小企業支援策を打ち出す意向を示し、議決にこぎ着けました。
来年1月に発効する最賃の改定額は16・4%増(7530ウォン)。この伸び率から14年以降の平均引き上げ率(7・4%)を差し引いた9%分について、政府が直接、従業員30人未満の中小零細企業に税金で支援するという内容です。そのための財源として3兆ウォン(3千億円)を計上する予算案を組みました。日本では、最賃に関する中小企業支援の予算が年間20億円前後であることを考えると、ケタ違いの規模です。
このほか、個人商店にも広く普及しているクレジットカードの手数料減免や、高齢者雇用の助成金の基準緩和、公正取引の推進、社会保険料の使用者負担減免なども検討しているといいます。
きちんと最賃が守られるよう、労働基準監督官も7月の補正予算で200人の増員を果たし、来年までさらに約300人増やす予定です。監督官数は、日本と同様に経済協力開発機構(OECD)平均を下回りますが、約30%の増員で改善を図る計画です。
韓国では近年の大幅引き上げにより、最賃違反やその予備群が少なくありません。こうした現状を捉えて最賃を引き上げない理由とするのではなく、引き上げるために必要な政策を打ち出す姿勢は、日本にとっても参考になります。
●あと2回の改定で逆転
韓国の最賃は全国一律です。今回の改定で日本の最も低い最賃(737円)を追い越しました。今後同率の引き上げを行い、日本が毎年3%引き上げると、来年には日本の加重平均(17年度の848円×1・03)に追いつき、再来年には追い越します(グラフ)。平均千円も日本より3年早く到達する公算です。
大統領は今後雇用への影響を慎重に見極めるとしていますが、当初想定(15・7%)を上回る引き上げを行ったことで、20年での1万ウォン(千円)実現が現実味を帯びてきました。
呉さんは「韓国も日本も欧米のような産業別労使の賃金協定がなく、最賃水準で賃金が支払われることが多い。最底辺の労働者の底支えを図るためにも最賃の重要性は増している」と意義を語ります。
韓国の今後の政策動向から目が離せません。
※10ウォン=1円で換算
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