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    崩壊寸前のタクシー業界/米シカゴ/ウーバーなどの進出で

     「シカゴのタクシー産業は壊滅寸前だ」

     地元のタクシー運転手組合が最近発表した報告書からは、そんな叫びが聞こえてくる。無資格ドライバーを活用するウーバー社やリフト社に市場を侵食されたタクシー業界は無残な姿をさらしている。

     

    ●水揚げが39%減少

     

     シカゴでは、約7千台のタクシー営業権を市が交付している。そこへライドシェアの認可が下りたのは昨年6月。報告書によると(1)当初9万台だった違法運行のウーバーとリフトの車両がわずか1年で23万台に達した(2)タクシーの水揚げ(売り上げ)は1台の月平均で39%減(3)月平均の実車回数は52%減(4)運転手の平均月収は2千ドル減(5)3月の時点で車両の42%が営業停止中――という。

     米国では、タクシーの営業権をメダリオンと呼び、各市が発行数を規制して供給過剰を防いできた。事業に新規参入したい場合は、廃業する業者からこの権利を落札する。運転手になるには、個人としてメダリオンを取得するか、タクシー会社へリース料を払う。いずれにせよ、ドライバーは「請負業者」だ。

     メダリオンは、投機目的でも売買されるため、価格はずっと右肩上がりだった。10年前は平均7万ドルで取り引きされ、2012年には39万ドルまで高騰した。だが、ライドシェアがシカゴを食い荒らす今日、5万ドルまで暴落した。強弱の差はあれ、同じ現象が米国各地で起きている。

     

    ●恥知らずの政治家たち

     

     シカゴ市議会は、ライドシェア容認の是非を巡って大議論を交わした。その過程で、指紋認証で運転手の身元を照会したり、身体障害者が車椅子でアクセスできることを義務化する妥協案が浮上。しかし、土壇場になってシカゴ市長はこうした条項を削除した条例を押し通した。タクシーとは別枠の条例だから、高価なメダリオンを取得する必要もない。

     市長の実弟はウーバーに投資する実業家だ。後日同社に抜てきされた市の官僚もいた。今年に入り、ウーバーの幹部が違法に市長に働き掛けていたと、シカゴ倫理委員会が9万ドルの罰金を命じた。恥知らずの政治家がウーバーに買収され、勤労者が翻弄(ほんろう)されている姿が浮かび上がる。

     シカゴのタクシー運転手組合は現在、上部団体の全米州都市労組(AFSCME)を通じ、営業権を維持する上で必要とされる年間数千ドルの負担軽減を市に求めている。あるメンバーは「1日16時間働いても、諸経費を差し引くと手元に何も残らない日が続く」と窮状を訴えている。(国際運輸労連内陸運輸部会長 浦田誠)