中小企業が主体の連合加盟産別でつくる研究会(中小企業問題研究会)が7月11日、「労使で考える魅力ある企業づくり」と題するシンポジウムを都内で開いた。経営者も交え、いかに人材を確保し定着してもらうかを議論。人事・労務政策にとどまらず、仕事のあり方、公正取引、産業政策にも話が及んだ。
研究会はJAMやUAゼンセン、JEC連合、フード連合などでつくる。2014年に発足し、外形標準課税、公正取引など、中小企業が直面する問題について意見交換してきた。
この日のテーマは「魅力ある企業づくり」。人材確保には処遇の向上が必要だが、低価格競争や取引先の理解の乏しさから原資を確保できないという問題にぶつかる。この点について、さまざまな角度から意見が交わされた。
JAMの宮本礼一会長はあいさつで、取引環境が厳しく賃金制度の整備もできない中小企業の現状を紹介し「付加価値を高めていくことが経営の持続性を高めていく。生み出した付加価値にふさわしい価格で取引されるルール、環境が必要だ」と語った。
かつての繊維大手、片倉工業の労働組合(UAゼンセン)の青木俊一委員長は、アパレルの国内市場規模がバブル期の15兆円から10兆円程度に縮小する一方、供給量は20億点から倍増するなど、製品単価が下落していると指摘し、「ユニクロを除く勝者なき消耗戦だ」と憂えた。低価格を競うのではなく、日本製品のブランド力を向上させ、それにふさわしい価格での販路を開拓する産業政策が必要と力説した。
●人間尊重の経営を
パネル討論では、自動車関連部品メーカーの代表取締役で、中小企業家同友会全国協議会副会長の加籐明彦氏が自社の過去二十数年の経営を振り返った。社長に就任した1990年代前半、完全な下請けだったが、無理な単価、不安定な発注量、人格をおとしめる元請けの言動に嫌気がさし、「独立した中小企業への脱皮」を図った。労働強化ではない生産性向上を考え、自動化を推進。経験が必要な業務には人を手厚く配置した。「商品構成が変わっても競争力を維持するには人間の能力をいかに高めるかが大事」と経営の根幹を語る。
同社の業績評価は絶対評価で、給与に連動させていない。目標への達成感を重視し、互いに協力し合う職場風土がものづくりの現場を支えているという。
リーマンショック直後、売り上げが70%減少した。だが、雇用を守り、給与、一時金には手をつけなかったという。社長が金策に走る代わりに、社員らは全国各地で営業に奔走、これが財産となり、3年後には創業以来最高の売り上げを計上したと述べ、「人間尊重の経営と労使のパートナーシップが、危機をチャンスに変えた」と語った。
●労使で切磋琢磨を
フード連合の山本健二事務局長は単組の委員長時代に、成果主義賃金の導入提案をめぐり、「会社は誰のものか」と経営側との大激論を繰り広げ、組合の主張を反映させた経験を紹介した。株主だけでなく、従業員、消費者、地域社会など利害関係者への配慮が必要というコーポレートガバナンス(企業統治)の考え方だ。山本氏は「労使で切磋琢磨(せっさたくま)することが大事。労働組合も経営を語れるようレベルを上げなければならない」と語った。
公正取引、高付加価値産業への発展、魅力ある企業づくり、人を生かす経営、労使協議――。黒瀬直宏・嘉悦大学大学院ビジネス創造研究科教授は、中小企業が活躍するための要素が語られたとまとめ、今後の労働運動の取り組みに期待を寄せた。
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