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    労働時評/連合運動史に汚点の恐れ/「残業代ゼロ法案」に修正要請

     連合が「残業代ゼロ法案」(高度プロフェショナル制度)について、反対から修正に転換し、政労使で合意しようとしたことに組織内外で批判が広がっている。修正とはいえない内容や唐突な方針転換、歴代の反対運動への逆行など、連合運動史の汚点となりかねない事態。予定されていた7月19日の政労使合意も急きょ延期された。

     

    ●法案の骨格変わらず

     

     残業代ゼロ法案は、年収1075万円以上で、金融商品の開発など高度な業務に就く労働者を対象に、労働時間規制の適用を除外する制度である。結果、24時間働かされても、時間外、深夜、休日の割増賃金が支払われなくなる。「残業代ゼロ制度」といわれるゆえんだ。

     連合の修正要請は、「健康確保措置」として、4週間に4日以上かつ年間104日以上の休日を義務付けるとし、新たに「2週間連続の休暇確保」「臨時の健康診断実施」を選択的な要件に加えた。

     労働時間規制の適用を除外する法案の骨格は手つかずで、修正とはいえない。

     

    ●過労死企業を免罪

     

     連合の修正要請で最悪のケースを想定すれば、4週28日のうち4日を連続休日に当てれば、24日間連続24時間労働も理屈の上では可能となる。「過労死促進法」ともいわれる。

     さらに法案は、労働時間規制に違反した企業を免罪する。使用者は36協定を結ばずに1日8時間を超えて働せると、現行法でも30万円以下の罰金か6カ月以下の懲役が科される。ところが、労働時間規制の適用がなくなれば、使用者は処罰を免れ、長時間労働は労働者の自己責任となる。

     制度適用には労使委員会の決議と本人同意を要件としている。「労使自治」の名で労働時間破壊の悪法に組合を巻き込もうとするものだ。

     賃金が労働時間ではなく、「成果」で支払われるようになるといわれるが、成果主義賃金の下で、労働時間規制がなくなれば、成果を上げるために長時間・過重労働が常態化するのは明らかである。

     

    ●理由も方針転換も唐突 

     

     修正提案も唐突だった。連合幹部は「圧倒的多数の与党で成立してしまう。実を取るための次善策だ」(逢見直人事務局長)、「そもそも必要ない制度。今の形のままでの法案成立(という事態には)は耐えられない。できる限りの是正が必要だ」(神津里季生会長)と釈明する。

     しかし、安倍政権が一括成立を狙う残業の上限規制と、労働時間規制の適用除外とは矛盾する立法だ。

     連合は以前から法案反対を決めていたが、7月8日の三役会議で突然、政府への修正要請を行うことを報告。週明けに開催した「中央執行委懇談会」では異論が出された。

     政府への修正要請は、安倍政権が「働き方改革実行計画」で法案の早期成立をめざすとした3月末から、一部幹部が主導したという。方針転換を直前まで組合討議に諮らず、政府・経団連を優先させることは、組合民主主義からも問題だろう。

     

    ●連合運動史に汚点

     

     今回の方針転換は、連合運動史に汚点を残すことになりかねない。

     連合はこれまで導入阻止の方針を貫いてきた。高木剛会長当時の2007年、「残業代タダはダメ」と電車の中吊り広告などでキャンペーンを展開、廃案に追い込んだ。古賀伸明会長時代には2度にわたり5千人規模の国会周辺デモを展開。初の47都道府県同時決起集会には、全国で2万2000人が参加した。

     他団体との関係でも、連合と全労連、全労協などは14年に6年ぶりの国会前同時座り込み行動を展開。日本労働弁護団や民主党、共産党なども共闘した。

     連合幹部の突然の「変節」は共闘に亀裂を入れ、歴代の運動に背き、歴史に汚点を残しかねない深刻な事態だといえる。

     

    ●批判強く政労使会談延期

     

     連合の法案修正に批判が広がっている。日教組の大会では代議員からこの問題について問われ、「法案反対の方針は変わらない」と本部が見解を表明。自動車総連の相原康伸会長も「現状はやや残念な感じ」と会見で記者の質問に答えた。全国ユニオンは「反対運動に対する裏切り行為」との声明を発表した。

     全労連は7月13日、「安倍政権に批判が渦巻き、支持率が急落する中で助け舟を出すべきではない」と記者会見でコメント。全労協は「断固反対」と表明した。日本労働弁護団は「労働時間法制の根幹を脅かす法案の廃案を求めていく方針に何ら迷いはない」との声明を発表した。

     連合内の意見の調整がつかず、19日に予定されていた政労使会議は突然、延期された。安倍政権は連合の歩み寄りを待つ方向だ。

     

    ●労働時間規制の擁護を

     

     「政労使合意」で高プロ制が導入されると、労働時間のルール破壊に連合が加担することになる。労働組合の存在意義にも関わる問題だ。

     第1次安倍政権の07年には各界の共同で葬り去り、今回も法案提出から2年以上も審議させていない。労基法70年目の大改悪阻止へILO(国際労働機関)原則の8時間労働制やEU(欧州連合)のインターバル規制も踏まえ、労働時間規制を維持・強化する運動が必要だろう。(ジャーナリスト 鹿田勝一)