企業買収を繰り返し、買収先の労組を消滅させてきたTCSグループ。労組が懸命に抵抗する中で、実質的使用者としての立ち位置が浮き彫りになってきた。使用者責任が問われようとしている。
●TCSを被申立人に
コンベヤー製造最大手の日本コンベヤ(大阪府大東市)には、結束力の強い労動組合(JAM)がある。2014年にグループ傘下に入って以降のさまざまな切り崩し攻撃に対し、組合旗掲揚、鉢巻就労、ストライキなどで対抗している。
攻撃の内容はセコニックと同様だ。一時金減額や持ち株会社採用による組合加入妨害、脱退の強要、組合役員へのマイナス査定、争議妨害、どう喝など枚挙にいとまがない。
15年12月、会社側はついにユニオン・ショップ協定の破棄をはじめ、便宜供与の打ち切り、事前同意条項の削除、スト破り禁止条項の緩和など大幅な不利益改定を提案した。ユ・シ協定解約理由はセコニックと同様、「価値観の多様化」。抽象的でよく分からない説明だが、同じ発想で行われたことが分かる。
組合は昨年5月、解約期限を前にTCSホールディングなど数社に対し、不当労働行為の救済を大阪府労働委員会に申し立てた。背景資本に照準を定めたのである。
8月にも証人尋問が始まる。組合は、グループ総帥の高山允伯氏を呼び出すよう強く求めている。同氏は団体交渉や労働委員会には出席しない。一連の争議で初めて、公の場で見解を表明させられるか。注目される。
●給料はTCSから
TCSの使用者性を考える上で興味深いやり取りがある。セコニック東京都労委審問での証人尋問(16年11月)の速記録だ。
証人はセコニックで「管理部次長」を名乗る人物。同社や日本コンベヤの団交にも出席している。「給料はどこから出ているのか」との組合側弁護士の問いにこう答えた。
「TCSホールディングスから出ております」
あけすけな証言に会場がどよめいた。
同氏はセコニック、日本コンベアにも入社し、TCSと兼務していると述べ、勤務実態を聞かれた。
弁護士「セコニックには月何日ぐらい出社されていますか?」
次長 「月に数回でしょうか」
弁護士「2日か3日という程度じゃないですか?」
次長 「最近はそうだと思います」
弁護士「TCSにはどれぐらい出社されていますか?」
次長 「ほぼ毎日ですね」
爆笑が起きた。労使関係へのTCSの深い関与をうかがわせる証言。この後には日本コンベヤでも月数回の出勤であることを確認している。JAMの栄敏彦組織グループ長は「TCSホールディングスが実質的な使用者であることは明らかだ」と話す。
●配当予定も一時金ゼロ
7月7日、日本コンベヤ労組は夏の一時金ゼロ回答に対し、争議行為突入を会社に通告した。
持ち株会社の今年3月期連結決算は1億2千万円の純損失だが、自己資本は73億円、総資産は124億円あり、経営を揺るがす規模ではない。立体駐車場装置の新設や公共関連を中心に復調が確実視され、来年は配当を予定している。一時金を払えない業績ではない、と栄氏は語る。
既に3年間で22人が退職した。一時金ゼロ回答は士気を低下させる。「加速度的な離職者の発生」を組合は懸念し、高山氏に団体交渉への出席を求めている。争議は、団結権だけでなく、会社を守る闘いとなってきている。
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