安倍晋三首相の友人に獣医学部設置で便宜を図ったのではないかとされる加計学園問題。その際に使われた国家戦略特区という仕組みに注目が集まっている。市民団体のアジア太平洋資料センター(PARC)はこの問題について6月29日、都内で緊急シンポジウム「加計学園だけじゃない! どうなってるの?国家戦略特区」を開催。規制の緩和・撤廃によってビジネスチャンスを広げる一方、国民の権利をないがしろにする恐れがあることに警鐘を鳴らした。
シンポでは、民泊サービスや農業、家事労働、都市開発などさまざまな分野で「特区」と関わってきた市民活動家やジャーナリストが報告した。
●規制なくせば無法地帯
東京・大田区の区議会議員で、市民政策アナリストの奈須りえさん(無所属)は「規制」の意味についてこう語った。
「規制緩和というといいことのように思う人もいるが、規制の多くは私たちの安全、環境、雇用を守っている。それを(悪い)岩盤扱いしてなくそうというのが規制緩和であり、(手段としての)国家戦略特区だ。規制がなくなれば、無法地帯、弱肉強食、自己責任の世界となる」
その上で、国家戦略特区の特徴を分析。過去の構造改革特区や総合特区と違い、意思決定の仕組みが大きく変わっていることを指摘した。「各省庁の抵抗を排し、内閣府で決められるようにした。安倍首相が『やる』と言えば、それを許す枠組みだ」と述べ、議会制民主主義とは無縁の制度だと厳しく批判した。
●労働者の人権が危ない
和光大学教授でジャーナリストの竹信三恵子さんは国家戦略特区を使った家事支援人材の導入について、問題点を指摘した。
今年度から大阪と神奈川、東京で具体化され始めたことを紹介した上で、こう訴えた。
「家事労働は虐待など雇い主からの人権侵害が起きやすく、国際的にも大きな問題になっている。日本では、労働法の規制や(外国人の)単純労働への規制、家事労働の危うさなどの論議をすべて封じて飛び越えるために特区が利用されている」
当面は、高所得の外国人宅などが対象になるのではないかとの見方を示しつつ、ベビーシッターや高齢者介護などにも活用される可能性を指摘。福祉・社会保障の肩代わりをさせることにならないか、と問題提起した。
今後の運動のあり方についても「家事支援の問題以外にも、いろいろな分野で進んでいる。気が付いた人が情報を集めて行政を追及し、それを拡散してほしい」と呼び掛けた。
●外国人投資家のため?
PARCの内田聖子共同代表は、国家戦略特区とTPP(環太平洋経済連携協定)の共通点は規制緩和だと述べ、大きな特徴として(1)国民が関与しにくいトップダウン方式(2)議会の軽視――があると強調した。
特に、東京とその周辺で特区の枠組みを使って都市開発が進められていることを紹介。小池百合子都知事が打ち出した「国際金融都市・東京」(東京版金融ビッグバン)構想がそれに拍車を掛けていると批判した。海外金融系企業への優遇税制や行政手続きの簡素化、外国人向け生活環境の整備などを挙げながら「都民ファーストではなく、投資家・企業ファーストではないか」と断じた。
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