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    若年性認知症を考える・上/「働き続けたい」に応える支援を

     全国で約4万人と推計されている若年性認知症の患者。65歳未満という現役世代での認知症発症は、失職やそれに伴う経済問題など、高齢者とは異なる困難に直面する。年金支給に合わせて退職年齢が引き上がる中、職場の誰かが認知症になるケースも今後増えていくはずだ。課題を探った。

     

    ●就労継続が悪化を防ぐ

     

     「本人の能力を維持する上でも、ぎりぎりまで就労を継続していくことが大切です」――こう強調するのはNPO法人・若年認知症サポートセンター理事の干場功さんだ。

      同センターは、認知症になった本人と家族が安心して暮らせる社会の実現を目指して支援活動を展開するNPO。干場さんが関わったケースでは、発症後も電車通勤できていた人が、仕事を辞めたとたん外出も困難になるケースがあったという。

     しかし、2009年の国の調査では、仕事をしている人が若年性認知症と診断された場合、平均2~3年で8割以上の人が退職を余儀なくされている。退職した人の6割は就労を希望しているものの、再就職を果たせるケースは少ない。障害者就労支援制度を利用しても就労者は3割弱にとどまる。

     こうした現状に対し、干場さんは「認知症になって一度に何もできなくなるわけではない。定型的な仕事ならこなせる人は多いし、周囲のサポートがあればできる仕事も広がる。可能な限り企業側も協力してほしい」と訴える。

     

    ●不可欠な職場理解

     

     家族の会や支援団体の働きかけを受け、国や自治体も若年性認知症患者の就労支援に動き始めた。各都道府県での相談窓口の設置や支援コーディネーターの配置を進めている。

     そうした窓口の一つ、東京都若年性認知症総合支援センターのセンター長、駒井由起子さんは「現役世代なので失職は経済的な困難に直結する。できるだけ仕事を続けられることが望ましい」とした上で、課題をこう指摘する。

     「認知症という病気の特徴を職場の皆さんにもよく理解していただくことが大切。どんな仕事なら可能なのかを見極めて配置転換を図ること。そこがきちんとできていないと、職場の人が本人への対応に振り回されて、疲れてしまう可能性がある」

     

    ●支援センターの活用を

     

     しかし、認知症になった本人あるいはその家族が、そのことを職場に伝えるのには困難もあるという。駒井さんは「伝えたくないという人は少なくない。年齢的にも役職に就いている人が多く、立場上も『認知症になった』とは言いづらい」と話す。

     認知症は進行性の病気であり、仕事のミスが増えていくことを隠し通すことはできない。結果として、職場の人間関係を悪化させたり、取引先とのトラブルに発展したりするケースもある。

     東京都福祉保健局高齢社会対策部の認知症対策担当課長、上野睦子さんは「病気を隠すことは、本来職場で受けられるはずの支援を逃すことにもなる」とマイナス面を強調。「認知症になったと伝えても即解雇といった対応をとる企業は少ない。会社と本人の話し合いには、支援コーディネーターを同席させることも可能だ。まず支援センターに相談をしてほしい」と呼び掛ける。