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    団結権侵害の現状を告発/国連がリポート/米国で組合つぶしが横行

     国連が米国の労働法に関するリポートを発表した。労働組合を結成しようとすると数々の妨害に会い、事実上、団結権侵害が放置されている実態を明らかにしている。サービス業関係の国際産別ユニオン・ネットワーク・インターナショナル(UNI)が6月19日付ニュースで紹介している。

     米国では、組合結成の動きに対し、使用者の75%が組合つぶしを目的とするコンサルタントを雇うといわれる。組合対策は今や40億ドル(約4400億円)産業とも言われる。組合をつくろうとする労働者は解雇や事業場閉鎖の脅しを受けることがしばしばだ。労働者保護が不十分なため、使用者はほとんど罰せられることがないという。

     UNIのフィリップ・ジェニングス書記長はこうした状況を踏まえ「米国の仲間に対する緊急支援が必要だ」と訴えている。トランプ大統領の反労働者姿勢がはっきりしてきて、組合つぶしに拍車がかかりかねないためだ。

     リポートを執筆した国連の元特別報告者マイナ・キアイ氏は昨年、ミシシッピ州カントンの日産自動車工場で働く労働者や、ニューヨークの洗車労働者、ルイジアナ州の教員らを訪ねて調査してきた。組合つぶしが横行する背景には大企業と政府の結託があると指摘している。

     

    ILO基準にほど遠い/ITUCが指摘

     国際労働組合総連合(ITUC)は6月13日、「世界の権利指標」(2017年版)を発表した。労働者への暴力と抑圧が横行する国が増加していると指摘。「60%の国で団結権が侵害されている」と報告している。

     その上で、米国については「組織立った権利破壊」の状況があることを明らかにしている。労働法や労働政策の立案・変更に当たり政労使の3者協議を定めているILO(国際労働機関)基準を満たしていないと指摘。「労働組合の意見を聞く仕組みはあるが、協議にはほど遠い」という。加えて、保守系政治家らによって団体交渉権への攻撃が強まりつつあることにも注意を喚起している。

     全国労働関係法(NLRA、通称ワグナー法)によって、ストライキ権が制約されていることにも言及。医療機関などでは、争議行為について10日前という長期の事前通告期間が設定されていることなどを紹介している。

     

    反労働者法案を批判/ペンシルベニア州の労働者

     米ペンシルベニア州議会に提案されている反労働者法案(正式名称は「職場の権利法案」)に対し、運輸労働者らでつくる労組チームスターズが反対運動に取り組んでいる。6月20日付の組合ニュースによると、約千人の組合員が州議会前で集会を開き、法案反対を訴えた。

     議会に提案されている法案は2本。「雇用の自由法案」と「公務労働者の賃金防衛法案」で、後者は、公務労働者からの組合費天引きを規制する内容だ。

     集会後のデモ行進には鉄鋼労働者や公務労働者も参加し、1200人規模に。トム・ウルフ知事(民主党)は組合に連帯を表明し、複数の議員が法案反対を言明した。同州チームスターズのウィリアム・ハミルトン会長は「住民は議員たちの投票行動を注視している。組合は引き下がらない」と訴えている。

     ペンシルベニア大学の食堂で働くフレッド・ケイショーさん(60)は「子どもたちのためにもこの法案に反対しよう。(組合があることで)職場で長く働いて報酬を得、安全に働き続けられるような社会にしなければならない」と話した。

     

    公設民営学校は反組合?/シカゴで組織拡大に挑戦

     米国で地域団体や民間団体が認可を受けて行う、公設民営のチャータースクール(CS)。シカゴのCSで働く教師らの労働組合がこのほど、シカゴ教職員組合との統合を決めた。

     ウォルトン・ファミリー財団など、CSを手がける大手の多くが労働組合を毛嫌いしている。CSの組織率は低いが、シカゴには32校のCS教員約千人でつくる労組がある。今回の組織統合は、組織拡大を一層前進させるのが目的だという。

     今回の統合方針に対し、CSの関係者はシカゴ教組への批判を強めて統合を妨害。しかし、組合員投票では84%が賛成した。

     CSには米国内でも賛否両論がある。低所得層の子どもを対象に学力向上に努力していることが評価される一方、組合は「これ以上の拡大は教育の質の向上にならない。予算は減り、給与や人員も十分ではない」と指摘。給与が低いため、若い教員はすぐに辞めていくという。

     組合は、共和党員の知事や右翼系団体がCSを推進する理由の一つが、組合のない職場を増やすためだと指摘。今回の統合をこうした「反労組戦略」を改めさせるきっかけにしたいと話している。