同一労働同一賃金に関する法整備を議論してきた労働政策審議会の部会で6月9日、報告書がまとめられた。有期労働者にもパート労働法と同様の均等待遇規定を設けるほか、待遇差に関する説明義務を事業主に課す(表)。待遇差が合理的であることの立証責任を使用者に負わせることは見送られた。
報告書は、待遇差が「不合理」かどうかの判断は、個々の待遇ごとに(1)職務内容(2)職務内容・配置の変更の範囲(3)その他の事情――のいずれか、または全部を考慮して判断されるべきと説明。(3)のその他の事情に「職務の成果」「能力」「経験」などの例示を加え、昨年末に策定されたガイドライン案に法的根拠を与える。
この(1)と(2)が正社員と同じ場合は、均等待遇が義務付けられるパート労働法の規定を、有期労働者にも設ける。同じ事業所に正社員がいない場合もあるため、同じ会社の正社員を比較対象とする。
派遣労働者については、派遣先との均等・均衡を図るようにした場合、「派遣先が変わるごとに賃金水準が変わり、派遣労働者の所得が不安定になる」として「選択制」を提示。派遣先労働者と比較する方法に加え、同種の業務に従事する一般労働者の賃金水準以上とすることなどを労使協定で決める方法を示した。過半数代表の選出や、協定締結の手続き上のルールを定めるとした。
待遇差の理由などについて事業主に説明義務を課すが、格差が合理的であることの立証責任を使用者に負わせることは見送られた。
同部会は有識者報告を受け4月以降、審議を重ねてきた。パート労働法、労働契約法、労働者派遣法の改正案を秋の臨時国会に出す予定で、ガイドライン案については法案成立後にあらためて部会で検討するという。
●〈解説〉正社員賃下げに歯止めを
「非正規という言葉をなくす」という首相の言葉とは裏腹に、均等待遇が一気に進むという内容ではない。転勤の有無などの違いがあれば、均等待遇でなくてもいい。懸案だった、裁判での立証責任も労働者に負わされたままだ。
労働者がこの法律を使って均等待遇を実現するのは難しいが、使用者が正社員の賃金を押し下げることに使われる可能性は否定できない。審議ではそんな危惧を抱かせる場面があった。
大詰めを迎えた6月6日の審議で「限られた賃金原資が正社員に大きく偏り、非正規は物件費だったりする。正社員への偏りをどう考えるのかという厳しい投げかけだ」(岩村正彦東京大学大学院教授)、「正規非正規の両方の賃金を見直すべき時」(武田洋子三菱総研政策・経済研究センター副センター長)と2人の公益委員が持論を展開。正社員賃金の引き下げを示唆した。
この発言に使用者側からの批判はなく、同省からいさめる発言もなかった。公益委員の個人的発言とはいえ、看過できない。正社員の処遇切り下げに利用されないよう、歯止めをかける必要がある。