世界の交通関係大臣や有識者らでつくる国際交通フォーラムはこのほど、ライプチヒ(ドイツ)で開いた年次総会で「無人道路輸送への移行対策」と題する研究レポートを発表した。トラックが完全自動運転化されれば、欧州と米国で合わせて200万人の運転手が雇用を失うと試算し、各国政府に雇用対策と法整備を提言した。
国際交通フォーラムは、経済開発協力機構(OECD)の関係団体で、毎年5月に加盟57カ国が参加する大臣会議を開く。今回のレポートは、労使の国際団体および欧州自動車製造業団体の意見を聴取しながら作成された。労働団体からは国際運輸労連(ITF)が代表して意見を述べた。
●各国で失業対策強化を
レポートは、(1)移行諮問委員会の設置(2)無人トラックの認可制度の導入(3)国際基準の設置(4)各種実験の奨励――を提起している。特に大量の雇用が奪われることに留意し、無人トラックへ移行するまでの間に政労使および自動車製造業の代表で構成される「移行諮問委員会」を各国が設置し、労働問題に取り組むことを求めている。
5月31日の共同記者会見で、ITFは雇用対策の重要性を強調した。移行で失職する労働者は生涯賃金の2割を失う可能性があると指摘されているためだ。さらに、貧富の差が拡大し、世界的に非正規労働が増大している中、この技術革新が社会にもたらす恩恵と大量失業というリスクの双方を十分勘案しなくてはならないと述べた。また、諸対策に必要な財源を確保する観点から、レポートが税制度の見直しについて触れていることを歓迎した。
移行期間についてレポートは、四つのシナリオを想定している。関係法令が整備される前から新技術が導入された場合、2021年には長距離輸送の半数で無人トラックが走り、翌22年には都市部輸送でも運行が始まると試算する。一方、慎重な導入策を各国がとった場合は、30年から一部の長距離輸送が無人化され、33年から欧州や米国の数都市で無人トラックが走り出すという想定だ。
●犯罪に使われる恐れも
トラックの自動化は、自動車製造業者や使用者にとっても大きな課題だ。つくる側にしてみれば、今日ほど大量の車を販売できる保証はない。トラック会社が生き残れるかも問われている。無人トラックは、荷主や運送事業者が輸送を直接管理することも技術的に可能だからだ。労使関係が変わる可能性もある。
記者会見では、複数のジャーナリストがサイバー犯罪について質問した。強盗対策のみならず、不法な遠隔操作によって麻薬や武器を貨物に紛れ込ませることは一部の港で既に起きているという。