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    インタビュー/治安維持法の再来を懸念/共謀罪法案/上田淳・連合熊本会長

     なぜこの時期にこんな法案を持ち出したのか。安倍首相は東京五輪・パラリンピック開催のために必要と言うが、招致の際そんな話は一言もなかった。東京のプレゼンテーターが「日本では財布を落としても返ってくる」と、治安の良さをアピールしていたことと矛盾している。

     「一般の方々が適用対象になるという不安や懸念を持たれないように立案を進めたい」(3月7日、金田法相)との約束も全く果たされていない。それどころか、治安維持法を制定した大正期の国会答弁と同じことを言っている。当時の小川平吉司法相は「無辜(むこ)の民まで及ぼす如きことのないように十分研究考慮を致しました」と答弁していた。そのわずか3年後の「法改正」で対象を広げられ、(共産主義者だけでなく)文化人や知識人まで取り締まられるようになった。

     このような負の歴史につながる法案をなぜ今出してくるのか。本当にテロ対策が必要ならば、必要な法律を整備すべき。対象犯罪を676から277に減らしたといいながら、どこがテロ対策に関連しているのかが全く説明されていない。法案の真の狙いは、人々が時の権力者や体制に反対意見を表明することを防ぎたいだけではないか。

     中でも、密告制はよくない。自首をすれば刑を減免する規定で、無実の罪で人を陥れることに使われかねない。反体制的な考えを持つ人で、まじめに法律にのっとった運動をしている人がそういう目に遭わないと誰が言い切れるか。そうなれば戦前と同じ監視社会となり、思っていることも言えないようになってしまう。

     

    ●法案の真の狙い

     

     雑誌「世界」6月号に興味深い論考があった。そこでは、作家の百田尚樹氏がツイッター上で「もし北朝鮮のミサイルで私の家族が死に、私が生き残れば、私はテロ組織を作って、日本国内の敵をつぶしていく」と発信し、テロの対象に朝鮮総連や民団、民進、社民、共産各党の名を挙げたという事実を紹介している。この論考の筆者は、共謀罪が作家に適用されるのか、それとも、作家とその賛同者が「敵」とみなすこれらの団体に適用されるのか、安閑(あんかん)としてはいられないと述べている。国会審議では明らかにされていない、法案の本当の狙いが表れているように思える。

     衆院法務委員会での採決強行の際、日本維新の会の議員が「30時間も審議したのだからもういいではないか」と採決を促した。もってのほかの発言だ。一体どれだけ議論が尽くされたというのか。閣僚からはまともな答弁はなく、野党が突っ込んで聞いても同じ答えしか返ってこない。議論は全く掘り下げられていない。

     連合熊本は、衆院での審議がヤマ場を迎えた5月19日を皮切りに、節目で民進党と連携しながら街頭行動を行っている。連合本部の学習資料を使いながら、民主党政権時に法務大臣政務官だった松野信夫弁護士による学習会も開催した。特に年配の方から、対象組織が広げられることへの強い懸念が示されている。

     今後国会の動きを見ながら、連合本部と一緒に、できる限り廃案をアピールしていきたい。