労働組合はその役割上、政府批判もするし、時の権力に対してさまざまな形で発信する。共謀罪法案が成立し、捜査当局の判断次第で「組織的犯罪集団」に認定され、常に監視、捜査の対象に置かれる恐れが強まれば、誰も何も言えなくなってしまう。
人々が話すことを自粛し黙り出したら、社会には一方的な情報しか流れなくなる。そうなれば権力の思うがままだ。権力を持つ者は言いたい放題になり、取り締まられる側は萎縮させられるという構図。もはや民主主義とはいえない。
表面上は気にしていない風を装っていても、心の中で二の足を踏む状況がつくられる。共謀罪による摘発事例があるたびに「ああいうことはだめなのか」と行動を制限するようになる。人間は弱い。黙らざるを得なくなる。人の行く道をコントロールするために、見せしめとなる事例をあえてつくり、一人一人の心に植え付けていく。そういう法律だと思う。
●盗撮捜査が公然と
昨年6月、参院選挙の最中、連合大分東部地協と別府地区平和運動センターが入居する労働者福祉会館の敷地(私有地)内に警察が隠しカメラを設置し、出入りする人々を監視していたという事件が発覚した。
大分県警は、選挙運動を禁じられた特定公務員(徴税や選管などの職務に従事する)が選挙運動を行っているとの「複数の情報」があり、その証拠を集めるために行ったと説明した。でも、それはおかしな話で、不特定多数の人々を撮影する理由にはならない。特定の人物を追尾すればいいだけの話だ。
県警は撮影に必要性、相当性がないこと、建造物侵入の違法があったことを認め、一応の謝罪はした。しかし、トップである県警本部長は最後まで謝罪せず、「複数の情報」の根拠も示さなかった。
会館では選挙運動を行っていないし、訪問者が連合か平和運動センターのどちらに行くかも分からない。出てきた人がどんな書類を持っているかもカメラからは分からない。結局、人の出入りを確認していただけだったということになる。
今回、警察は「不適正な捜査」と認めたが、共謀罪法案が成立すれば、こうした盗撮による「捜査」が増えるだろう。盗聴、SNSへの監視が増え、密告の奨励も強められる。「『複数の情報』提供があった」といえば何でもできるようになる監視社会の到来だ。
事件後、「『会館には行きづらい』と話す組合員もいる」という報告も寄せられている。会館周辺は隠しカメラを据える余地のないようきれいにしているが、違和感はぬぐえない。
●まだ伝わっていない
日本人はつつましい。「共謀罪法案は一般市民には害がない」と言われると、「私には及ばない」と信じやすい。だが、対象になるかどうかは、自分が決めることではなく、捜査当局が決めること。そのことがまだきちんと伝わり切れていないように思う。
連合大分は、民進党と街頭宣伝を行うとともに、県内キャラバンも検討している。地方にも廃案を求める声があると訴えることが大事だ。過去3回廃案になりながら看板を架け替えただけの法案。憲法にも抵触する。持ち場立場ですべきことをし、廃案に追い込みたい。
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