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    インタビュー/「一部への奉仕」は憲法違反/安倍政権下での公務員のあり方/鎌田一・国公労連書記長

     森友・加計学園問題に関わる一連の「便宜供与」疑惑について、安倍政権による権力乱用が指摘されている。同時に、国家公務員のあり方も厳しく問われている。国公労連は、公務員を「全体の奉仕者」と位置付けた憲法の規定に今こそ光を当てるべきだと訴えている。鎌田一書記長に話を聞いた。

     

    ●トップダウンの内閣府

     

     ――「全体の奉仕者」はなぜ憲法に規定されたのですか?

     鎌田 憲法15条2項は「すべての公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない」と規定している。特に、一部の奉仕者ではないと定めている点が大事。戦前の公務員は天皇のために仕事をし、戦争遂行に協力した。その反省から、国民全体の利益のため公正に仕事をすべきと180度変わった。

     公務員は任用時、この規定を含めた憲法の順守を宣誓し、署名する決まりになっている。だから、特定の勢力や外圧に流されることがあってはならず、そのために身分保障や倫理規定がある。

     ――森友疑惑などを見ると、そうは思えません。

     鎌田 今日に至るまでの流れを振り返っておきたい。まずは2001年1月の省庁再編で、この時につくられたのが内閣府だ。それまでは各省庁が行政機関として役割を果たしていたが、行政府ではない内閣府がその上位に位置付けられた。各省庁間の調整ではなく、上からトップダウンで命令する形に変わった。背景には「省益にこだわる省庁の既得権打破」という財界の要求があったのだと思う。

     今、内閣府の中には経済財政諮問会議をはじめ、いろんな機関があり、それらの報告書や結論を閣議決定の形で上から省庁に降ろしてくる手法が続いている。

     

    ●弊害多い幹部人事管理

     

     ――人事管理の手法も変わりましたか?

     鎌田 幹部人事については内閣人事局の担当に変わった。幹部人事が一元化され、実質的に官房長官が強い権限を持つようになっている。今では、各省の大臣でさえ人事の権限がないといわれるほどだ。すると、上(政権)の顔色をうかがう人間が増える。

     幹部ではない一般公務員の人事管理には人事評価が入った。短期間で評価され、処遇に反映されるため、職員のマインドは変化した。時間をかけて丁寧にやるべき仕事が敬遠され、数値目標をこなす行政に変質。上司の目を気にするようにもなってきた。職場の組合員からは、そういう声を聞いている。

     とはいえ、志の高い公務員は存在する。最近よく忖度(そんたく)ということが言われるが、役人が上司の意向を察知して動くこと自体は日常的にやっていること。しかし、不正行為まで忖度することはない。だから森友・加計学園疑惑など一連の疑惑では、政治家から具体的な指示があったと見ざるを得ない。今や、三権分立は機能せず、政権に物を言えるはずの与党議員は非力。公務員は人事管理で萎縮という状況だ。

     

    ●公務員を私物化するな

     

     ――だとすれば、どうすればいいですか?

     鎌田 各府省に行政権限を戻すこと。各府省の設置法通りの仕事を行えるようにし、独立性と自立性を回復させるべきた。内閣府は廃止するか、権限を限定すべきだろう。公務員に萎縮をもたらす人事管理も、政治家が口出しできないようにする必要がある。

     首相夫人の昭恵氏に常勤の一般職国家公務員を5人も付けていたというのは、驚きだ。一般職の政治的行為は厳しく規制されているはずであり、政務に関わりそうな秘書官などは通常、特別職任用だ。一般職を5人も付けて選挙応援にも行ったなどというのは従来ルールを大きくゆがめるもの。公務員の私物化で、許されない。

     ――前川喜平・元文部科学省次官が加計問題の実際を告発しています。これをどう見ますか?

     鎌田 職員からは「よく言ってくれた」「筋が通っている」と評価の声が寄せられている。私自身、同じ気持ちだし、前川さんがああまでしてうそを言う必要などどこにもないと思う。安倍政権は彼の証言を受け止め、徹底調査すべきだ。

     国公労連としては、森友・加計学園問題などの徹底解明と併せ、公務の公正・中立性を求めて取り組んでいく。6月13日には「公務員・行政の私物化を許さない緊急院内集会」を開き、現状を改善する運動に着手する。