Q 労働基準監督官の業務を民間委託するって聞いたけど、どういうこと?
A 政府の規制改革推進会議が5月23日にまとめた答申で打ち出した。監督官による定期監督が年間、全企業の3%にしか実施できていないと指摘した上で、民間がお手伝いしましょうと提案しているんだ。
Q 具体的には誰がどうやって手伝うの?
A 社会保険労務士などを雇う民間受託者が想定されている。三六協定を届け出ていない事業場に「自主点検票」を送り、内容をチェック。回答しなかったり、指導が必要と思われたりする事業場に対し、同意を得て相談指導を行う。同意が得られなかったり、問題がありそうだったりするものについては、監督官に対応してもらうという。
●違法行為の摘発は困難
Q それくらいならいいんじゃないの。監督官も忙しいんだし。
A いや、逆に監督官の仕事がやりにくくなる恐れがあるんだ。悪質な企業の場合、社労士などからの問い合わせには適当に答えておいて、監督官が来る前に証拠の隠蔽や従業員への口止めなどを行う恐れがある。最初から監督官が対応していれば、書類の閲覧や関係者への尋問などの捜査権限を使って実態を明らかにできる。結果として、その企業の違法行為が摘発できず、労働者保護がいい加減になる。しかも、それだけじゃない。
●ILO条約違反の恐れ
Q まだあるの?
A 社労士にとって、企業は顧客になる可能性のある存在。営業活動と一体化しないか、心配されている。そういう関係で、違法行為をちゃんと摘発できるのかどうか。企業に甘くなるのは避けられない。
Q じゃあ、民間委託は無理っていうこと?
A 働く者にとっては何もいいことはない。社労士などの相談指導が監督業務に代わるものだとしたら、国際労働機関(ILO)の条約(81号の労働監督条約)に違反する恐れが強い。「監督官は不当な外部圧力と無関係な公務員でなければならない」と規定されている。安易な民間委託は論外だろう。
Q でも、なぜ民間委託の提案が出てくるの?
A 規制改革推進会議は「監督官が忙しいからお手伝いするのが目的」なんて言っている。でも、規制改革が目的である以上、(1)ビジネスチャンスの拡大(2)監督行政の緩和――という狙いがあると見た方がいい。労働者派遣法のように、最初は小さな例外を設け、だんだん例外を広げていくのは、規制緩和を進める人々の常とう手段だ。監督行政を弱める「アリの一穴」になる恐れがあるよ。
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