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    インタビュー/税関業務をゆがめる恐れ/共謀罪法案/植松隆行・東京国公事務局長

     私は東京税関という職場に42年間、勤務していた。その立場から共謀罪法案の乱暴さに警鐘を鳴らしたい。

     法案では、関税法に定める六つの犯罪が対象になっている。その一つが「輸入してはならない貨物の輸入」だ。輸入禁止物品として11分野を規定し、麻薬や覚せい剤、拳銃、爆発物、特定の化学物質などを列挙している。

     税関の主要な業務は、こうした物品の輸入を水際で防ぐことであり、日々警察とも連携を取りながら検査・取り締まりを行っている。場合によっては没収、積み戻し命令が可能で、厳しい刑事罰を科すこともできる。

     

    ●共謀罪の効果はない

     

     この関税法に共謀罪ができたとしても、税関業務が強化されるとは思えない。輸入禁止物品を外国から持ち込もうと相談し、計画した者がいたとしても、その段階での取り締まりは税関の管轄ではないからだ。

     職員の多くは、共謀罪がつくられても意味がないと考えている。水際防止をしっかり行うには、検査率の向上などが必要で、人員体制を強化すべきだろう。

     ましてテロ対策とは関係がない。仮に税関での検査体制が強化されれば、結果としてテロを準備するための危険物を取り締まることになるかもしれないが、それは共謀罪によるものでない。

     

    ●国民監視の口実に

     

     私が心配するのは、輸入禁止物品の中には「公安又は風俗を害すべき書籍、図画など」「児童ポルノ」「著作権、商標権などを侵害する物品」が含まれていること。要するに、ポルノ雑誌やビデオ、偽ブランド品などがこれに当たる。

     外国で偽物を大量に仕入れて国内で売ろうと話し合っただけで罪になる。冗談だったり、途中でやめたりしても罪は罪。実際に警察が監視・逮捕するかどうかは別にして、やろうと思えばできることが恐い。

     だから、関税法を国民弾圧、国民監視の口実に使うなと言いたい。

     

    ●警察の権限強化に不安

     

     もう一つの懸念は、税関行政がゆがめられるのではないかということだ。

     例えば、今ならポルノ雑誌や偽ブランド品などを外国から持ち帰る人がいたとしても、いきなり罪に問うようなことはしていない。注意を与えて、任意で放棄してもらうか、積み戻してもらうかだ。だまされて偽物を買った人もいるわけで、要は国内に持ち込ませないことが第一。こういう場合、人権保障を定めた憲法の下では、税関の権限行使も抑制的であるべきと考える。

     ところが、共謀罪がつくられると、実際に運用するのは警察である。警察の方が税関よりも優位に立ったらどうなるのか。税関行政がゆがめられる懸念が拭えない。