北朝鮮の核・ミサイル開発に対して、米韓が軍事演習「斬首作戦」を仕掛けるなど緊張状態が続く朝鮮半島。そんな中、「北朝鮮への攻撃は当然」といった議論すら出されるなど、日本社会の雰囲気がどこかおかしい。外務省のアジア局中国課長などを歴任した政治学者の浅井基文さんに話を聞いた。
――北朝鮮の核・ミサイル開発が今回の事態を招いた出発点だと思いますが、「北の脅威」をどう見ますか?
軍事的な「脅威」の定義は、「攻撃する能力」と「攻撃する意思」の二つそろうのが条件です。確かに朝鮮(北朝鮮)は攻撃能力を持っていますが、それを使った瞬間、米軍の報復で国は崩壊です。それが分かっていて自ら攻撃を仕掛ける意思があるはずがない。そうした意味で、「脅威」ではないというのが軍事的常識です。
拉致問題や金正男氏暗殺疑惑など〃何をするか分からないのが北朝鮮〃といった声はありますが、日本に攻めてくるというのは次元が違う話。危機をあおり立てるのは、ためにする議論です。
――では、核実験と弾道ミサイル発射は何のためでしょうか?
1990年代初頭、ソ連が崩壊し、中国も「改革開放政策」を取る中で、金政権は国際的な後ろ盾を失いました。核開発は、そんな彼らが自己の政権の存続を図るための手段としてスタートしました。
94年に米クリントン政権との間で合意された「米朝枠組み合意」が履行されて、米朝の関係が正常化していれば、核開発はストップしていたと思います。しかし、ブッシュ政権はこの合意を破棄。イラン、イラクと並ぶ「悪の枢軸国」として名指しした。2003年にイラクが米国までに侵攻された後、金正恩朝鮮労働党委員長の父、金正日が「次は自分」と危機感を募らせたのは当然でしょう。
これが、核開発を朝鮮がしゃかりきに進めた理由です。米国や韓国から攻められない報復力を持つことによって、金正恩政権の存続を図ろうとしているのです。
――北朝鮮の自己防衛目的の核・ミサイルを「脅威」に仕立て上げているということですね。
安倍政権としては、朝鮮が自ら攻撃を仕掛けることはないと分かっていながら、「脅威」を叫ぶことで軍事力を強化し、集団的自衛権の行使に踏み込む。さらには憲法改悪まで突っ走りたいのが本音でしょう。
ところがミサイル4発を日本海に等間隔で落とすなど朝鮮のミサイル技術が向上。日本に核兵器を落とす能力を持つ事態にまでなってきた。そんな状況下でのトランプ米政権の登場です。「いきなり北朝鮮に殴り掛かるんじゃないか」と安倍政権も緊張したはずです。そうなれば日本もただではすみませんから。
シリアへの米軍の空爆に対して、安倍首相は支持を表明する一方で武力行使への評価を避けました。この歯切れの悪い発言の裏に、トランプの軍事的暴走に対する懸念が透けて見えます。
――日本国内には「北朝鮮はとんでもない国だから攻撃してもいい」といった雰囲気すらあります。
米韓合同演習のテーマは「(金正恩の)斬首作戦」でしたが、マスコミはそれを当然というような視点で報道しました。しかし、170カ国以上から承認されている国連加盟国ですよ。その政権トップを暴力的に排除するのを〃当たり前〃とする報道が横行すること自体、日本のメディアの異常性を明らかにしています。
もしそんな事態になったら、朝鮮は「在日米軍基地に(核ミサイルを)打ち込む」とはっきり言っています。そしてその能力を持っている。例えば横田基地に落とされたら東京はどうなるのか、原発を標的にされたらどうなるのか。それを真剣に考えた対応を取るべき段階にきているのです。
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