17春闘の大きな特徴は、中小のベア回答額が春闘史上初めて大手を上回ったことである。背景には人手不足だけでなく、中小への支援を各産別がこれまで以上に強めたことがある。今後の参考になる取り組みだ。
●過去30年間に格差拡大
春闘62年の賃上げ結果を検証すると、今春闘は中小の格差是正で新たな歴史を刻んでいる。資料のある1962年から84年までの22年間、中小は賃上げ額は低くても、賃上げ率では賃金ベースの低さを反映し大手を1~3%程度上回っていた。その後約30年間、中小は額、率とも大手を下回り、格差が拡大した。
転機は昨春闘から。「大手追随、準拠の転換」を掲げ、賃上げ率で大手との格差を縮小させた。今春闘では大手より賃上げ額は低いものの、定期昇給を除くベア額で春闘史上初めて大手を上回った。連合集計(4月11日現在)では300人以上は1327円だが、300人未満のベアは1373円となっている。
連合の神津里季生会長は「顕著な成果」と評価。須田孝総合労働局長は「底上げ重視と付加価値循環の運動の反映だ。上げ幅の評価と併せて、賃金水準の絶対額を引き上げる運動が重要だ」と提言している。
●中小に賃金情報を提供
自動車総連も、今春闘で初めて中小のベア額が大手を上回った。3千人以上の大手のベアは1253円で、300人未満の中小のベアは1274円。
自動車総連は連合の共闘推進集会で中小支援体制の強化を報告。大手企業労連が中小労組の賃金のプロット(分布図)や賃金情報を提供し、格差など賃金課題の洗い出しと戦術面での支援を行った。
要求方式も、中堅技能職で年齢・勤続など個別賃金の引き上げを重視。要求組合数は昨年の363組合から、全体の半数に当たる505組合に増加した。相原康伸会長は「人材確保と併せ、従来以上に中小の支援体制を強めた運動の反映」と評価している。
●先導役労組が好影響
JAMは今春闘で初めて地方のリーディング労組を設定し、地場先行相場の形成と波及に取り組んだ。全国15の地方組織を軸に、地方で影響力のある319の中小労組がその役割を担った。「先導役になった組合は元気になり、運動に好影響を与えた」という。
底上げをめざす個別賃金要求を重視し、回答を引き出したのは、昨年より4割増の132組合。ベアも300人未満が1404円と大手を239円上回る成果を挙げている。
取引先に付加価値の適正評価と公正取引を求めるよう、単組が自社に要請する取り組みを初めて展開。この問題での省庁要請も効を奏しているという。宮本礼一会長は「賃金の社会性へ個別賃金を重視し、公正取引の運動も強化する」と今後を展望する。
●顔の見える共闘で前進
UAゼンセンは「昨年プラス春闘」を展開し、妥結結果は昨年比128円増の6022円という成果を挙げている。
春闘体制の強化では、単組から委譲された妥結権の行使と「顔の見える共闘」を重視、部門闘争委員会を新設した。産別本部が妥結を判断する際には、金属大手の先行マイナス回答に対し、「下げ止め」と昨年同水準を重視。先行する大手化繊5組合、続く綿紡10組合が昨年同水準を確保し、後続労組に波及させる効果を発揮した。
新設の部門闘争委員会は製造60組合や、流通、総合サービスなど138組合の各部門役員組合で構成。松浦昭彦会長は「顔の見える新たな共闘で闘争力の発揮を」と運動の前進を評価し今後に期待を寄せる。
●全ての中小労組を支援
フード連合は、251ある全ての中小労組を対象に支援対策会議を設置。中小労組の実情や力量に応じて支援内容を4つに分類し、産別と業種別部会、親企業組合が一体で支えているのが特徴だ。
妥結結果は300人未満の4843円に対し、100人未満が4930円と高く、「取り組みが強化された結果」と評価。松谷和重会長は「グループ親組合も組合のない子会社など中小を支援した」と語る。
●波及効果、昨年上回る
電機連合では、大手11組合が形成したベア千円(30歳・開発設計職)が219組合へと8割の組合に波及し、ベア平均は1010円となるなど、産別統一闘争の強みを発揮している。
電機の産別統一闘争は、賃上げ統一要求と、大手労組によるスト権の産別本部への委譲、争議回避の妥結基準設定を行いながら、相場形成、波及をめざす闘争方式だ。波及効果は千人以上で91%、300~999人は83%と、昨年の71%を上回る。野中孝泰委員長は「産別波及力を強めた」と評価している。
●産別団交で産別力発揮
金属製造業や通信産業の労組で構成するJMITU(全労連加盟)は、統一ストと産別団交で成果を挙げている。産別本部と地本役員を含む産別交渉団が単組の交渉に入る方式で、交渉追い上げ期の4月に東京各地で統一産別交渉日を設定。交渉前日に上積み回答1万1千円を引き出した組合もある。そのほか、高卒初任給の1万2500円引き上げや高齢者の雇用継続と3万円賃上げなどの成果も挙げている。
生熊茂実委員長は「産別単一組織として企業内交渉でなく、要求・回答確約・回答促進まで産別交渉を展開し産別力を発揮した」と語っている。(ジャーナリスト 鹿田勝一)
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