岩田行雄編・著の「世論と新聞報道が平和憲法を誕生させた」から、当時の地方紙の記事を紹介したい。いずれも1946年11月3日、4日付の紙面である。
●「菊花と共に薫る 全道に繰展ぐ慶祝絵巻」(北海道新聞)
【札幌】新憲法公布のきのう三日は朝から日本晴れ。小春日和の日射しを受けて菊花薫るこの日、札幌市は各官署をはじめ会社、学校など午前十時を期して一斉に記念式典を挙行、意義ある公布を祝った。街には花電車が終日運転され、ドッとばかりに地方から押し寄せた人々で、朝から十字街、狸小路などは人の波……綺麗にいろどられた商店街には「憲法公布記念うどん、そば」としゃれこむ飲食店もあり大繁盛で、祝いのアーチに紅白の幔幕(まんまく)を張り巡らした映画館もすし詰めの超満員。狸小路の市章市場では「平和日本再建」のアーチに紙の万国旗、ゴム風船、紙テープが店々を飾り、「記念福引き大売出し」―十円以上の買い物をしたお客に幸運の籤(くじ)引き一本、だが立派な鏡台が当るなど、くじ引く人が長蛇の列。着飾った娘さん、若夫婦、母親に手を引かれた可愛いい坊やも、みんな大きな希望に輝いて、明るく日本の巨歩を踏んだ。
●「仙台市内の風景点描」(河北新報、抜粋)
新憲法公布、久しぶりの日の丸が目にしみる。仙台市電も日の丸をつけて走っている。奉祝々々で仙台の中心部に押し寄せた夥(おびただ)しい人々が自ら酔ったように押しつ押されつ流れていく街の人ごみ中から……△「さあ、奉祝の御馳走に買った買った、新憲法のサンマ、六本十円」景気のいい魚屋さんの帽子に、お祝いのつもりか野菊一輪△農事は例年よりもはかどり、早場米の供出も予定の三倍を出した仙台の新市域では、世紀の記念日の三日早朝、戸毎に臼の音を響かせて祝い餅をつき、野良仕事は休んで、赤い着物の娘たちと復員服の青年たちは、どっと市の中心部へ押し出し、闇市の中を流れて評定河原の青年運動会へと急いだ。また、各公会では三合づつの特配酒を持ち寄って、農地解放やら夫婦同権やらの話に花を咲かせ、秋日和の午後を和やかな空気の中におくった。
●「踏出す希望の首途 街に村に繰り展ぐ祝賀絵巻」(福島民友新聞)
敗戦日本が、民主日本の土台石とも言うべき新憲法は、菊薫る昨三日国民の待望裡に公布された。この日、県都福島をはじめ県下各地では、祝賀会に引続き、運動会、仮装行列、旗行列、演芸大会などそれぞれ多彩な記念行事を開いて、心からこの日を寿(ことほ)ぎ、二百万県民は麗しき郷土の上に、新憲法の真意に徹した民主国家を建設すべきことを改めて誓うのであった。
●「世紀の式典挙行さる 県民一致邁進せん各地に多彩な祝典絵巻」(下野新聞)
(…)新憲法は明治憲法の運用の過ちが太平洋戦争を生み、遂に日本を敗戦の悲境に陥れた。冷厳な現実の上に立って、この過ちを繰り返すまいとする国民の確乎たる決意を基礎としている。それは国民主権を高らかに宣言すると共に、徹底した平和主義と民権擁護の精神を強調したもので再建日本の前途を照明する高い理想の憲章であり、また世界の最高水準を行く憲法法典である。
●「民主日本の夜明け〃祝〃の花輪、アーチに賑う」(中部日本新聞)
【動物園】東山動物園ではきょう三日に限り、子供入園料を半額の十銭に割引きし、東邦商業のブラスバンドや教育局島田おじさんの童話などがある。【写真説明】中日新聞本社の屋上から「明く輝け民主日本」「平和の光新憲法」の垂れ幕
●「平和の鐘は鳴る/今日円山で記念祝典」(京都新聞)
平和日本の建設を約する、新憲法施行の歴史的祝典は、きょう三日午後一時から、憲法普及会府支部主催、府市共催のもとに薫風そよぐ円山音楽堂で行われる。この日式典挙行に先立ち午前十時から府下各寺院から鳴らされる「平和の鐘」の響く中を、空からは飛行機による普及宣伝のビラがまかれ、百八十万府民の祝意はこの一場に集結される。
●「民主日本の首途を祝う」(日本海新聞)
主権在民の新憲法は公布され、人民の権利は保守された。長い間の封建的桎梏(しっこく)にあえいでいた日本人の画期的な法典公布に、五十六万県民はいよいよ自我の自覚に目覚め、平和日本、民主日本の再建に新たなる決意を固めている。菊花ふくいくとして闌秋(らんしゅう)の野に香る十一月三日こそ、我らの永遠に記念すべき日である。この日を祝して県下各地では歓喜に溢れた記念行事が繰り展げられた。
●「刑務所で演芸大会」(高知新聞)
高知刑務所で恩赦令の恩典に浴したのは、同所収容中の既決囚七百四十名のうち約六割の四百八十余名。同所では、午前十時恩赦の詔書奉読に引続き、受刑者中の素人演芸会を開催した。出演希望者は五十余名に上り、一人五分以内の制限付きで出演した。
●「憲法を祝福して」(日向日日新聞)
【延岡市】延岡市では、憲法公布を祝う仮装行列(…一行分不明)賑わいを呈した。旭化成ベンベルグ工場約二千名の仮装行列は正午に工場を出発、女工さんの曳く屋台を先頭に京人形の憲法公布人生展覧会を繰り出し、続いて「新憲法は平和の基礎」「新憲法は楽土の地固め」などと書いた憲法御輿(みこし)を担いで市内を練りまわり、折から開催中のレーヨン部運動会場に入り込んで踊りに踊り勤労者の喜びと感激を爆発させた。
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