ベアゼロなどが続いた長い〃賃上げ冬の時代〃が終わったかのような、金属労協(JCM)の集中回答日。東京・日本橋の事務所は活気づいていた。賃上げは確かに4年連続である。
注目はいつもトヨタ自動車だ。ホワイトボードに書かれたのは、9700円。うん? 既に報道されているベアは1300円(16春闘のマイナス200円)のはず。賃金制度維持分(定昇相当分)の7300円を加えて8600円ではないのか?
残る1100円は何かと思ったら、2021年1月実施予定の、子育てのための「家族手当」引き上げを4年前倒しするのだという。今春闘で3回行われたトヨタの労使協議会ではいっさい出なかった話が、回答日にポーンと出てきた。ベア1300円に上積みされた形だ。前年並みの賃上げを要請した安倍政権への、豊田章男社長の配慮だろう。
●米と対立軸作らず
トヨタでもう一つ見ておかなければならないのが、豊田社長が労使協議会で述べた「対立軸を作らない」「GIVE&GIVEの精神が大切」という言葉である。一見、意味が分からない。トランプ米大統領に、トヨタが米国で雇用を増やすことや工場建設を求められていることを重ねると理解できる。
トヨタは、利益の4割を米国で稼いでいる。自動車産業は、AI(人工知能)を使う自動運転技術などで熾烈(しれつ)な競争をしている。組合側からも労使協議会で、グーグルやアップルなどを念頭に、「IT業界なども含めた異業種との競争にも打ち勝っていく必要がある」の発言が出たほどである。
トランプ米政権や米IT業界と「対立軸」を作らず、「GIVE&GIVEの精神」でいかねば、これまでのような利益を稼げないからだ。
●組合は胸を張るが…
トヨタをはじめ自動車や電機などでは、ほとんどが16春闘のベア割れになった。メディアの論評は、トランプ米政権の誕生で、日本経済が先行き不透明になり、そのことを経営側に利用されたというのが共通する見方である。17春闘は、「官製春闘」から「トランプ春闘」に様変わりしたというのは言い過ぎだろうか?
金属労協の相原康伸議長は、集中回答日の記者会見で、「4年連続のベアは2002年以降、初めて」と胸を張った。安倍政権やトランプ米政権に配慮しているような春闘で〃冬の時代〃が本当に終わるのかどうかは、まだ見通せない。(ジャーナリスト 柿野みのる)
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