残業時間の上限規制で3月17日、政府の裁定の下、経団連と連合が合意した。繁忙期の上限が過労死認定基準並みという規制の緩さに加え、休日労働を使う抜け穴もある。過労死をはじめ、働かせ過ぎによる健康被害をなくす点で不十分との指摘は多い。
規制内容は、月45時間、年360時間を原則としたうえで、(1)一時的に業務量が増加した場合については1年の時間外労働は720時間が上限(2)繁忙期については休日労働を含んで2~6カ月平均で月80時間以下、単月で月100時間未満の上限を設定(3)月45時間を超える時間外労働が1年の半分を超えてはならない――とした。違反には罰則が科される。事実上の上限規制は(1)~(3)となる。
規制は複雑だ。(2)の過労死認定基準並みの上限規制には休日労働を含むが、(1)の年間時間外労働720時間と、(3)は休日労働を含まない。過労死認定基準と、現行の時間外労働規制を継ぎはぎした結果であり、組み合わせ方によっては、年960時間を上限とする働かせ方が理屈の上では可能となる(概念図)。
厚生労働省の資料によると、ドイツ、フランスでは1日10時間を労働時間の上限とし、12カ月平均で週48時間(独)、12週平均44時間(仏)などとしている。こうした先進国水準と比較にならないだけでなく、労働者を使い捨てにする悪質な企業に、過労死認定基準の近くまで働かせてもいいというシグナルを発信してしまう懸念もぬぐえない。
この後は労働政策審議会に諮るが、合意内容が大きく変更されることはないとみられる。法案化に際し、今後策定される実行計画次第では、既に国会で継続審議とされている「残業代ゼロ制度」を含む労働基準法「改正」案とひとまとめにされることも、手続き上は可能である。
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