労働需給のひっ迫、若者の大手志向で中小企業は人手不足が深刻だ。人材確保には将来を見通せる処遇を整備することが必要だが、そのための原資が足りないという問題にぶつかる。金属製造業の中堅・中小労組でつくるJAMの河野哲也書記長に今春の闘争のポイントを聞いた。
――人手不足の現状は?
厳しい。特に中小ほど人を採用できない。定年退職後の補充ができない。経営者でさえ、後継者がいないために会社を清算する事例も出ている。「人材不足倒産」を引き起こす状況が生まれつつある。
ハローワークの調査でも特に高卒者を採れないことが明らかになっている。求人に対する充足率は、従業員30人未満でわずか23%、100人未満では36%で、千人以上の大手が100%を超えているのとは対照的だ。実際われわれの現場でも同様の報告がされている。これを改善するためにも中小企業の魅力を高めなければならない。
――人手不足は交渉の追い風になりますか?
追い風ではある。このままでは良質な人材を確保できないという危機感は、経営者もおおむね共有している。ではどう格差を改善していくかということになると、簡単ではない。
2016年闘争では、一部の中小で大手を超える賃上げを獲得した組合もあったが、14年からの3年間一度も賃金改善を獲得できなかった加盟組合は、300人未満では45%もある。規模間格差だけでなく、同規模間の格差も広がっているといえる。
「ない袖は振れない」という壁をどう乗り越えるか。そのために、あるべき賃金水準への到達をめざす個別賃金要求と、「価値を認め合う社会」の取り組みを重視している。
●全地協で取り組みを
――「個別賃金元年」を提唱されています
初任給は世間相場に合わせて引き上げるが、その後が、賃金制度がない、賃上げがないなどの理由で、賃金が伸びない。JAMの実態調査でも、30、40歳ポイント(高卒直入者)の賃金格差は、従業員千人以上と100人未満とで広がる傾向にある(グラフ)。
まずはJAMの「一人前ミニマム基準(30歳・24万円、35歳・27万円)」への到達をめざす。組合員25万人分の賃金データの第1四分位の水準。例えば今後5年で到達する目標を労使で決め、今年いくら引き上げるかを話し合う。そして「到達基準(30歳・26万円、35歳・30万5千円)」をめざしてほしい。
――個別賃金の取り組みはなかなか浸透しません
職種や年齢のポイントごとの賃金水準の開示を行った組合は、14年の170組合から、16年には379組合に倍増している。個別賃金要求に取り組む条件のある組合だ。
会社に賃金データを出させるのがベストだが、そうならない場合は、自分たちで集めなければならない。組合員の理解を広げる地道な活動を経て初めて可能となる。
今年は全国105ある地域協議会で、それぞれ少なくとも1組合以上、個別賃金に取り組む組合を増やしたい。オルガナイザーの役割が決定的に重要だ。
●「値戻し」に初挑戦
――「価値を認め合う社会」の取り組みは?
昨年は、経営側に優越的地位乱用防止への理解を促す要請を行った。今年はさらに踏み込んで、自社経営陣に単価の「値戻し」、単価引き上げを取引先に求めるよう要請する。「ない袖」を「ある袖」にする、初の取り組みだ。
昨年3月に616社が回答した取引実態についての調査結果(JAM)では、3割が値戻しを要請し、そのうち85%で何らかの値戻しがされたと答えている。残る7割は初めからあきらめているのではないか。単価引き上げのすそ野を広げたい。
経営者の多くが歓迎すると思う。ストレートに「分かった。頑張ってみます」となるかというと簡単ではないだろうが、一歩ずつでも前進させたい。
――自動車総連が下請け企業に付加価値を適正に循環させる運動を昨年始めました。JAMには自動車関連の組合がありますが、影響はありますか?
現在調査中だ。JAMの組合はティア2(2次下請け)以下の企業。これからの波及を期待したい。単価引き下げの要請は以前より弱まっているが、一部で厳しい話ももれ伝わってくる。
ただ自動車総連が「winーwin 最適循環運動」を昨年から始め、経済産業省も下請け取引環境改善を進めるなど、取引関係をめぐる世の中の雰囲気は大分変わってきていると実感している。
●労組の社会的責任
――有期契約の無期転換が来春本格化します
技術の継承を含め、無期転換では正社員化するよう求めていく方針。産別本部が作成した無期転換ルールに関するチェックリストで点検し、正社員登用のハードルの引き下げや、直雇用の非正規労働者の処遇改善に、同じ職場で働く労働組合の社会的責任として取り組むよう呼びかけている。
中堅・大手ほど有期労働者が多い。仕事、処遇に関する、しっかりとしたルールづくりが重要だ。
――最後に決意を
継続することが大事だ。たとえ来年、連合全体がどういう方針になろうとも、物価がどうなろうとも、JAMはあるべき賃金水準への到達を目指さなければならない。そのためにも来年につなげる成果を積み上げたい。
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