経団連の春闘対応指針である2017年版経営労働政策委員会報告が1月17日発表された。今年も「年収ベースの賃金引き上げ」を重視。全体の賃金を引き上げるベースアップ(ベア)をその方策の柱の一つとしつつ、定期昇給や一時金増額も賃上げに含めるなど、従来の総額人件費抑制姿勢から脱し切れていない。
報告は「経済の好循環を力強く回すべく3年間続けてきた経済界の取り組みをさらに進めるために、賃金引き上げのモメンタム(勢い)を17年も継続していく必要がある」と表明。こうした「社会的要請」を賃上げ決定の考慮要素として重視するとともに、予想物価上昇率を議論の対象とする考えを示した。
そのうえで、収益体質が改善している企業については「16年に引き続き『年収ベースの賃金引き上げ』を前向きに検討することを求めたい」とし、その方策として、定期昇給やベア、一時金の増額、諸手当の見直しが柱になるとした。
子育て世代や貢献度の高い優秀な層に重点的に配分する「ベア」や、配偶者手当の見直しを示唆したほか、所定労働時間の短縮、非正規社員の処遇改善(時給引き上げなど)、正社員化、定年後継続雇用社員の処遇改善、「介護手当」創設などの働き方・休み方改革を列挙している。
中小企業が賃上げできる環境整備に向け、「下請け取引の適正化など取引条件の改善」の必要性を指摘するなど、政府の施策に協力する姿勢が目立つ。
●格差是正方針に水差す
一方、連合が示す月例賃金への強いこだわりについては、「月例賃金引き上げに固執するほど、賃上げの選択肢が狭まる」と主張。総額1万500円以上を目安とする連合中小共闘方針には今年も「現実的な水準とは言い難い」とし、大手との格差是正をめざす方針を「経営者の理解は得られにくい」と一蹴する。
●反省なき「転換」
経労委報告は、90年代以降、横並び・一律の賃金決定の見直しを訴え、2000年代以降は総額人件費抑制で春闘のありようを変えた。
史上最高益でベアゼロとした「トヨタショック」翌年の経労委報告(2003年版)では、同社出身で当時の奥田碩経団連会長が序文で「春闘は終焉(えん)した」と主張。翌年は「ベースダウン」の表記も現れ、「実感なき景気回復」の素地を作った。その後も、賃上げによるデフレ脱却を訴える労働側の主張を否定し続けた。
様相が変わるのは、第2次安倍政権発足後。賃上げによる経済好循環を掲げ、政労使会議を経てベア容認に転換した。ただ、14年には、一時金の増額を賃上げに含めるという考え方を示すなど、「年収ベースでの賃上げ」を抵抗線としている。
賃金抑制により長期のデフレを招いたことへの反省の弁はない。自分たちに利益をもたらす政府の要請を気にしているだけで、日本社会の将来に責任を負う姿勢は今も見られない。
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