裁判で解雇が無効とされた場合でも、お金を払えば退職させられる「解雇の金銭解決制度」について、立正大学の高橋賢司准教授は「解雇をお金で買う制度であり、解雇法制を空洞化させるもの。導入すべきではない」と述べた。モデルの一つとされているドイツの類似の制度については「実際にはほとんど利用されていない」という。11月12日に東京地評が主催した「東京働く者の権利討論集会」での発言。
安倍政権が成長戦略として掲げる「日本再興戦略」には、2014年以降毎年、同制度を導入すべきと明記され、15年10月には有識者検討会が発足した。検討会では、ドイツで導入された例も参考に議論が進められている。
ヨーロッパでは2000年前後に解雇規制の緩和が議論された。解雇しやすくなれば企業が人を雇いやすくなり、失業率が緩和されるという理屈だった。
●使われない制度
高橋准教授によれば、規制緩和の一つとして解雇の金銭解決制度(解雇制限法1a条)が導入されたが、現在までほとんど使われていない。ドイツでは同制度の解決案に不服な場合、その後裁判で争うことができる仕組みになっていることが背景にあるという。
解雇無効時に裁判所が補償金支払いを命じる「解消判決」という制度もあるが、あくまで労使の信頼関係が崩壊した状況での例外的な規定であり、これも使われることは極めてまれだ。
こうした事実を指摘した上で高橋さんは「ドイツで使われていない制度を、日本が模倣するべきではない。解雇をお金で買う制度であり、判例や法制を通じて長年かけて作り上げてきた解雇権乱用法理が吹っ飛んでしまう」と厳しく批判した。
日本では解雇が無効とされても、職場復帰より金銭解決を選ぶ人が多い。その背景には、ヨーロッパにあるような「就労請求権」がほとんど認められていない点を指摘。「ドイツやフランスでは、解雇無効時に(会社に)『雇え』と言うことができ、裁判所を通じて強制させていくことも可能。そうした仕組みが必要だ」と述べた。
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