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    インタビュー/「権利と自由」の視点強めよう/改憲の動きと労働組合/労働法学者の田端博邦さん

     安倍政権による安保関連法の強行や改憲論議など、戦後日本の歩みを大きく変える政治の動きが高まるなか、労働組合は企業内の処遇改善や雇用確保に努力するだけでいいのか。「それだけでは不十分」と指摘するのは東京大学名誉教授の田端博邦さん(労働法)だ。話を聞いた。

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    ●ナチスの経済政策とは

     

     ナチスドイツは戦時体制をつくるために、表現の自由、集会・結社の自由、言論の自由など、独裁に敵対する社会運動や批判的言論の基礎となる基本的人権を全面的に禁止しました。しかし同時に、大規模な軍需生産に加えて高速道路(アウトバーン)建設、国民向け乗用車(フォルクスワーゲン)の製造など雇用を拡大し、高い失業率を大きく改善させて国民に支持を広げました。人権抑圧と福祉経済政策の両方を進め、それが独裁体制の構築につながったのです。

     このことは、今進められている安倍政権の政策を考える時、とても示唆的です。

     安倍政権は安保法制を強行し、憲法9条を含めた改憲を提起しています。自民党の改憲草案(2012年)は個人主義を危険視し、共同体の価値を重んじる内容、一言でいえば「戦前の体制は良かった」という思想です。一方経済面では「アベノミクスによる好循環」のもとで、求人倍率改善や大企業の賃上げなど雇用市場が実際に改善されている面もあります。もちろん正面から批判すべき点はありますが、世間一般の評価として「前より景気は良くなった」という受け止めもあります。ナチスの手法同様に、戦時体制と雇用政策がともに進められているのです。

     

    ●「裏」を見抜く視点を

     

     労働組合はこうした二つの動きの両方を捉えるべきです。雇用や賃金、生活の改善は労働組合にとって本来的な重要事項ですが、それだけを考えていては、戦時体制の構築を進める政治権力に絡め取られる恐れがあるということです。

     最も大事なものは、基本的人権と個人の自由です。これらを抑圧することによって、戦時体制や独裁的な政治権力がつくられていくからです。改憲草案は、基本的人権や個人の自由とは対立的な内容です。労働組合は視野を広く持ち、今何が進められているかを見抜くことが必要です。

     

    ●働く個人の議論が重要

     

     憲法の改正や軍事化に対してどう対応するかという問題は、特に軍需生産に携わる企業の労働組合では難しい問題です。軍事体制の進展が、自らの企業や産業全体の成長、雇用の安定につながるからです。しかしなぜ軍事生産が拡大するかを考えれば、それは働く者の雇用を保障するためなどではなく、最終的には自分たちや自分たちの家族の首をしめかねない戦時体制と軌を一にしたものだということが見えてきます。

     当面の雇用や労働条件にとってはプラスでも、家族や国民全体の将来にとって危険なものだとすれば、自分たちの雇用や労働条件を守りながら、より平和的で国民全体にとっても良い将来を実現する産業構造をどうつくっていくかという議論につながっていくはずです。それは原発関連産業などでも同じことがいえるでしょう。

     経営者は目先の企業利潤を追求しがちですが、労働組合はその先まで議論すべきだと思います。平和や国民生活全体の安定に向け、働く者の立場だからこそできる長期的な視野に立った提案が求められます。

     労働組合は尊厳を持った自由な個人である労働者の集まりです。そうした一人一人が考え議論を積み重ねていくなかで、組合としての見解をつくっていくことが大事です。